第10章 9杯目
「合同授業なのに!
先輩いないから、私だけバディいなくて、バルガス先生に探してこいっていわれたんです!」
「飛行術なら、お前関係ねぇだろ。サボれ」
「な!!そしたら、ミイラ取りがミイラになるじゃないですか!
単位もらえなくなったらどうするんですか!
今日という今日は!!」
きゃんきゃんうるせぇ。
ぐいっと腕を引いて、咄嗟に対応できなかった彼女は俺に倒れ込んできて、俺はその勢いを利用して起き上がる。
「ちょ、何するんです?!っんぐ」
「黙ってろ」
ポケットから取り出した例の口紅を彼女のふっくらとした唇にのせる。
ムカつくほど、彼女に似合う色だった。
あの男も見たんだろうか。
彼女の白い肌に映えるような、艶の含んだその唇を。
固まる彼女に、そりゃそーかと思いつつカチッと蓋を閉めて、彼女のブレザーのポケットにそれを入れてやる。
間抜けなほどのアホづらに、ふっと笑いが出る。
「お前に、俺はまだ早ぇな」
何て、
キザくて
ダサい強がり。
吸い寄せられるように、その唇にキスを落とす。
「んっ、」
ぺろっと舐める。
口紅の苦い味。
「ひゃう、」
「ふっ、お前本番でそんな間抜けな顔すんなよ?、」
せめてもの慰めに左手の親指で、
自分が汚した彼女の唇を拭ってやる。
ベタついた、嫌な感触。
「な、なにするんですかっ、」
「それ、贈った相手にする前に、俺で練習できてよかったじゃねーか」
しゅるんと、さらに魔法で
親指では拭きれなかったぶんの彼女の汚れを落とす。
元通りにしてやった。
彼女のため?
…いや、全部俺のためだ。
立ち上がった俺を恨めしそうに見ながら、顔を赤く染めている。
俺の行為で、そんな顔すんのかよ。
「ラギーにやった土産の中にそれ、紛れ込んでたぞ。ラギーのやつも、身に覚えがねぇっていうんだから、お前のだろ?
大事なら無くすな、気をつけろよ?」
せめてものつよがり。
なかなか立ち上がらない彼女をそのままに、俺は別の寝床を探すことに決めた。
テメェの唇、勝手に奪った男と一緒に授業なんて受けたくねぇだろ。
ラギーに、
監督生が体調不良。
授業休ませる教師にうまく言っとけ。
と適当な文を打ちつつ、適当な場所に寝転ぶ。