第10章 9杯目
『9.75話』
.75って、細けぇなって思ったろ?
いーんだよ、独白なんて柄でもねぇし。
昨日ラギーがくすねてきた口紅は、俺が見たことある中でもなかなかの上物であることは、手に取った瞬間にわかった。
細かな装飾。
それでいて、
嫌に派手でもなく慎ましく、
獣人として鼻をつく香りであっても、人間ならさ程気にならないだろう。
センスのある贈り物。
国にいた頃、義姉に聞いたプレゼントの意味。
男なら女のために知っておけと、叩き込まれたせいで嫌でもわかった。
「ッチ」
気にいらねぇ。
目障りで仕方ねぇ。
ぶっ壊してやりたいのに、その度に頭に浮かぶのはアイツの笑った顔。
あの顔を崩したいわけじゃねぇ。
…歪ませたいわけじゃねぇ。
いつものように最適な昼寝ポイントで、授業をサボる。
こんな気分で、一度やった分野なんてクソだるくて仕方ねぇ。
今日はいつもと違う場所だった。
ここなら、
人目にだってつかないし、植物園と違ってアイツと鉢合わせることはないだろう。
そう思って、目を閉じだのに。
パキッと
枝を踏む音がして、無意識に耳が動く。
声よりも先に、匂いが鼻を掠めた。
「れおなせんぱーい」
ヤローばかりの学園で、こんな花みたいな香り。
そうそうないだろう。
ポムフィオーレの奴らみたいに、キツいわけでもないのに。
何故か覚えてしまっている、自分が憎い。
寝たふりをしてやり過ごそうと、その声を無視する。
「レオナ先輩ってば、…って、起きてますよね?」
「…」
「狸寝入りしたってダメです。私もう、先輩が狸寝入りじゃないかそうじゃないかくらい、わかるんですからね?」
その言葉が何故かむず痒くて、
…少しだけ嬉しく思う。
馬鹿野郎、
何だよ、嬉しく思うって。
ハタチだって、とおに超えてるっつーのに。
ゆっくりと目を開けてやる。
「なんだよ、草食動物の分際で。俺の昼寝邪魔する気か?」
「何度も言ってますけど、私は肉も魚も好きですし、雑食ですから!
先輩みたいにお肉だけよって食べないし、好き嫌いだってありませんからね?」
「ツッコミそこで良いのか?」
「って、茶番やってる暇ないんですよ!」