第10章 9杯目
焦げ目がついてきたころ、あたりには良い香りが立ち込めて。
こっそりと味見してやる。
「あちっ」
美味いけど、少し塩を入れすぎたかも知れない。
まぁいっか。
野菜も入れたことだし。
野菜炒めと、冷凍していたおにぎりを温めて持ってく。
レオナさんはベットに腰掛けて、
まぁさっきよりはだらしなくないか…と、思った時。
オレがさっき夕陽にかざしたそれを、
レオナさんは月夜にがざしていた。
そんな顔するくらいなら、
そんなに苦しいなら、
さっさとどうにかすれば良いのに。
あの人に傷つけられた彼女を、
優しく包んで、
この間傷を手当てしてあげたみたいに、
そっと触れて直してやれば良いのに。
もどかしいオレのオーサマ。
お盆を持つ手に力が籠る。
力んだせいで、ガリっと歯がなってしまう。
「はっ、…ったく。ラギー、なんて顔してんだよ」
それはオレのセリフだ。
「レオナさんこそ、さすが絵になりますね」
「おい、てめぇ…野菜入れんなって言ったろ?」
「レオナさんにピッタリじゃないっすか」
オレは知ってる。
触れたものを壊すと本人は思ってるようだけど、
…そんなことない。
誰よりも優しく慈しみをもって、
物に触れることが出来るヒトだってこと。
「つーか、何怒ってんだよ?」
「文句あるなら食わなくていいっすよ?」
「ばーか、食うに決まってんだろ。腹減ってんだよ」
「って、肉ばっかりよって食うな」
「お前が野菜入れんのが悪りぃんだろ」
「あんたが野菜食わないからでしょーが!」
そんなくだらないやり取りをしてながら、オレはやっぱり気になってた。
レオナさんが飯を食うために、ベッドの脇に置かれたサイドテーブルにそっと置いた口紅のこと。
「オレの肉まで箸つけないでくださいよ!
つーか、野菜をオレの皿にうつすな!!」
「きゃんきゃんうるせぇ。耳が痛い」
「うるさく言われたくないなら、言われるようなことしないでくださいよっ全く」
ねぇ、レオナさん。
あんた、それどーすんだよ?
壊すのか、
返すのか、
また別の選択肢があるのか。
頭の悪いオレに教えてくれよ、
最適解をさ?
アンタが納得する答えをさ。
オレが納得できる結末をさ…。