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オニオンスープ

第10章 9杯目


 『9.5話』

 「監督生くんも、鈍臭いっていうか、なんていうか」

 夕陽に翳したそれは、後輩が探していたもの。

 「ほんと、オレみたいなの信じるとか…馬鹿な奴」

 それは、案外簡単に見つけられた。
 バカでもわかるくらい、優しくわかりやすい場所にあった。

 まぁ、化粧っけもないあの子だからこそ、
 気づかなかったのかもしれないけど。

 だからこそ、古びた橋台の引き出しに忍ばせたのかもしれないけど。

 「バーカ」

 誰に言ってるのか、
 はたまた自分自身にいったのか。
 自分でもよくわからないくせに口をつい出た一言に、なぜか笑える。

 『最初から無かったって言う選択肢に確信が持てたので』

 …か。

 あんな顔するくらいなら、オレみたいな奴に気を許しちゃダメでしょ。

 付け入る隙なんて、幾らでもあるんだから。

 帰り際、あの子が少し悲しく笑ったことだけが、
 後ろ髪をひかれるような気もしたけど…。

 ぎゅっと握りしめたそれを、こそっとポケットに忍ばせた。

 ぐるりと気の済むまで飛んだ後、自分の寮へと戻る。

 「おい、ラギー」

 人使いの荒いオレのオーサマが、今日も自室でだらけてる。

 「なんすか、」
 「帰ってくんのがおせぇ。飯」
 「へいへい」

 帰ってくんのが遅いって、アンタのために働いてきたっつーのに。

 「…ん、お前何処か行って来たのか?」
 「あー、監督生くんのとこっすね。手伝い頼まれたんで」
 「へぇ」

 意味深に言ったレオナさんに、オレはどうしてかドキッとした。

 「どんな手伝いだったんだよ」

 いつもはこんなこと聞いてこないくせに、と思いながら脱ぎ散らかされた服を拾っていく。

 「別にレオナさんに関係ないっすよ」
 「そうか」
 「そうっす」

 言い放った時、
 ヒョイっとポケットから何か抜かれるような感覚。
 俺の中にあったはずなのに、レオナさんの手に渡った口紅。

 「コレはなんだ?」
 「目ざとすぎません?」

 ハァッとため息をつかれる。

 「アイツの匂いに混じって、他の男の匂いがする」

 それを手にした段階で大方、全部勘付いてるくせに嫌な言い方。
 さすがレオナさん。

 鼻がいいっつーか…。

 「そーっすね」
 「ラギー」
 「なんすか?」
 「余計なこと、すんなよ?」
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