第10章 9杯目
「じゃあ、ご馳走様でした〜っ!トレイさんのお土産も美味かったし、たまには手伝いすんのもありっすね!」
満足げなラギー先輩を見送る。
「ラギー先輩、探すの手伝って貰ってすみません。結局見つからなかったけど、最初から無かったって言う選択肢に確信が持てたので」
先輩が大きく目を見開いた訳も、
その後優しく、ぽんぽんと撫でられた頭の意味も、
よくわからないまま。
「まー、ケイトさんじゃなくてもさ、監督生くんにはいい相手いるっすよ。
うちの寮長なんてどうです?
王子様ですし、頭もいいですし、顔はもちろんスポーツだって出来ますし、グータラだけどいいこと尽くし!
今ならオレもついてくるっす!お買い得っすよ!」
にぃっと笑った先輩。
さっきまでクッキーを砕いていた先輩の犬歯が、
やけに光って見える。
ラギー先輩はレオナ先輩を薦めてくるけど、私はやっぱりどうしたってケイト先輩がいい。
レオナ先輩には、悪いけど。
「黙らないでくださいよー、オレだったら絶対レオナさんのがいいけどなぁ」
頭の後ろに手をやって、いたずらに笑う。
「ケイトさんのどこがいいんすか?顔?」
「全部」
「そう言う時だけ即答するんだもんなぁ」
ちぇーっと、面白くなさそうな顔。
「ケイト先輩じゃなきゃダメなの、上手く言えないけど」
「…まぁ、いいけど。それじゃ、今度こそ帰るとするかなー。
またね、監督生くん」
さすが魔法使いというべきか、ポンっと箒を取り出して飛んで行った先輩。
探すのを手伝ってくれたのは、先輩の気まぐれ。
色々なバイトを経験して、探し物だって得意そうな彼が見つけられなかったっていうんだから、仕方ないと自分に言い聞かせる。
「ラギーのやつ、帰ったのカ?」
ふよふよーっと、後ろから来て肩に乗ったグリム。
「うん、今帰ったよ。さ、中に入ろっか」
肩の上からおろし、抱き上げ直す。
「グリム、重くなった?」
「失礼なんだゾ」
「ごめんごめん、」
ぎゅっと抱きしめて、そっと頭を埋める。
ぽふぽふっとグリムの肉球が私の頭を触る。
「ぐりむ」
「どうしたんだ??」
「なんでもない」
ただ、
先輩に揶揄われたって事実が、
どうしようもなく苦しくなっただけ。