第10章 9杯目
「で。気づいたら部屋だったんですよ」
「えーっと、つまり…ケイトさんに使うはずだった催眠剤を誤って、自分の方に使ってしまったと?」
「それなんて馬鹿ですか?催眠剤って、トレイ先輩とかルーク先輩じゃないんだから」
かなり、偏見である。
「ルークさんその辺で聞いてると思うんで、背後気をつけた方がいいっすよ」
「怖いこと言わないでくださいよ、その時はラギー先輩も道連れですから。むしろ囮にして逃げますから、私。」
「できるんすか?オレのが足速いのに」
「む」
「それで?」
「で、その翌日の昼に確信めいたこと言われたから、これはあったなと。
っていうのが、ここ、2日〜3日の話なんですけど」
「へぇ〜…、それは困るっすねぇ」
「困る??」
「あぁ、いや…なんでも」
思案するような先輩に、私変なこと言ったかなと思っていると、
大きなクリクリとした目を向けてくる。
「確信めいたことって?」
「え…いや…」
"残念、オレがあげたのつけてくれるの期待してたんだけどな"
艶のある声。
"そういうことだからさ、次は覚悟しといてね "
「…っていうか、してないな」
「え?」
口紅貰って、塗ってもらって、次は覚悟しといてねって言われただけで、してないな。
「口紅貰ったんすか?」
そうそう、なんかすごく綺麗な装飾の、ヴィルさんに貰ったとかで。
「へぇ、いいこと聞いたっす」
「え?」
「シッシッシッ、監督生君、気をつけたほうがいーっすよ。
全部口に出てたので」
「う、わ」
「で、そのリップはどこに?」
「え?あーっと…」
「まさか、無くしちゃったとか?」
「いえ…、その、わからなくて?」
「どう言うことっすか?」
「もう、本当にレオナ先輩以上の色気だったもので、途中でポンって記憶がなくて」
「それはさっき聞きまたけど?」
「だから、貰ったのどこにしまったのか検討もつかなくて…」
ラギー先輩の大きなため息。
「バカですか、アンタ」
「う…」
「…しょーがない。オレが手伝ってあげましょーか?」
「え?」
「リップ探し。もしかして夢かもしれないんだから」
「っ、…って、どんな魂胆です?」
「いや、暇つぶしなんで。魂胆もないっすよ」
……それを純粋に信じた私の負け。