第10章 9杯目
「嫌ってすねぇ。そもそもオレ、副寮長じゃねーんで。レオナさんのパシリみたいなもんだし」
「じゃあ、ラギー先輩のことパシリ先輩って呼ぶんで」
「喉元噛みちぎってもよければどーぞ」
と、呑気に隣に座り、紙袋からドーナツを取り出して頬張ってる。
大きな口に立派な犬歯。
「これみよがしに食べるじゃないですか」
「次はアンタの番っすよ」
「え、シャレになんない」
もきゅもきゅっと、りすのように口にいっぱい詰め込まれたドーナツに、身震いする。
笑顔で言うところが、もうクソほどヴィランだと思う。
言葉遣い悪いって?
小一時間…いや、その前の段階から踏まえると、先輩に捕まってからを考えるとゆうに2時間は超えるけど、まるまるこの状態ぞ?
膝がせんべいになりそうだ。
ケイト先輩にだって、そんな長い時間膝を貸したことはないのに。
これがケイト先輩ならいいのに。
そういえば、ラギー先輩ほどじゃないけどケイト先輩にも八重歯あったな。
やば、考えただけで幸せになってきたぞ?
「おーい…監督生くーん?」
せっかく現実から逃避行しようとしてたのに、ラギー先輩が目の前で手を振るから、夢から覚めてしまったじゃないか。
「なんですか、」
「いや、話してる途中で自分の世界入ったから」
「だって重いんですよ、先輩の頭。知識溜まってますって感じをアピールされてるみたいでムカつく」
「褒めてんのか、貶してんのか」
「ケイト先輩なら甘んじるですけどねぇ」
と言うと、むくっと起きたレオナ先輩。
文句の一言でも言ってやろうと思ったのに。
しゅるっと解けた尻尾。
そのまま立ち上がった先輩の尻尾が、たらりと元気がなさそうに見える。
「先輩?」
「ラギー、サボる」
「レオナさん、飯は?」
「気分じゃねぇ」
なんとなく、せなかが憂いを帯びてる。
「あちゃー、」
隣で聞こえたわざとらしいため息。
「監督生くんも、なかなか悪い女っすね」
「えぇー…、わかんなー…」
「マジで分かんないんすか?」
「うん、…って、え?やっぱ私のせいなの?軽く2時間は膝枕してあげたのに?」
「……レオナさんが不憫っす」
「いや、私の方が不憫では?レオナ先輩といると授業はサボる羽目になるし。膝は痛いし」