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オニオンスープ

第9章 8杯目


 『オレは先輩みたいには戦わない。好きな女は、虐めるんじゃなくて守るもんだろ』

 そう思ってた時期も多分オレにだってあった。
 特撮のヒーローみたいに。

 苛めてるわけじゃない。

 オレを忘れて欲しくないだけ。

 君に覚えていてほしいだけ。


 すぐに目を覚ますだろうと思ってたのに、結局そのまま彼女は寝てしまって。

 流石に一晩彼女といたらオレの理性が保たないと、彼女を抱き上げる。

 あまりにも無防備なその姿に、そっとキスをする。
 ごめんね、こんなオレでさ。

 魔法でその口紅を落とす。

 「…ケイト」
 「あ、トレイ君。どうしたの?」
 「そろそろ消灯時間だろ。って、監督生?」
 「うん。夜食作ってくれてそのままオレの部屋で寝ちゃったんだ」
 「そっか、…ったく、送り狼になるなよ」
 「まだ、ならないよ」
 「まだ、ね」

 同級生と別れて、鏡を通る。

 熟睡してる彼女。

 本当はこのまま時を止めて、ずっと2人でいたい。
 帰り道なんて見つからなきゃいいのに。

 「なんてね」

 オンボロ寮へとつくと、迎えてくれたのはグリム君。

 「今日はケイトなんだナ」

 眠掛けをしている。

 「そうだよ、オレだよ。…だけど、コレあげるから監督生ちゃんには言わないでね」

 サムさんのところで買った幻の高級ツナ缶をポンっと、グリム君の手に出す。

 「わかったんだゾ」

 グリム君はコレで買収できたし、と、監督生ちゃんの部屋まで運ぶ。

 こんなところに女の子1人で住んで不安じゃないのかな。

 「うちの寮に来ればいいのに」

 なんて、出来もしないことを思う。

 ギシッとベットが軋む。
 彼女を寝かせ、布団をかける。

 「けいと…せん、ぱい」

 寝返りを打った監督生ちゃん。

 「…なんだ、寝言か」

 ねぇ、どんな夢みてるの?
 夢の中のオレは優しい?

 どうしようもなく、愛おしい。

 オレだって、贈りたいよ。
 白と赤両方の薔薇を、君に。

 だけどやっぱりその棘で君を傷つけてしまうんだろう?

 だからせめて、

 「おやすみ、」

 いい夢を見てほしい。

 ベットの脇にあった鏡台の引き出しに、そっと忍ばせた口紅。

 今日の夜を君が覚えていなくても、いつか思い出すように。




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