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オニオンスープ

第9章 8杯目


 「って、せっかくだしつけてみてよ」

 ねぇ、オレが選んだ紅をつけて。

 「でも、」

 彼女と出逢う前のオレ、ヴィル君に口紅を贈る聞いた時は正直興味ねぇーっておもったけど。

 「なーに?コレつけたとこ見たいなー、オレ」

 正直今回のは確信犯。
 
 「っ」

 動揺しちゃって可愛い。
 
 「…あぁ、じゃあオレがつけてあげるからさ、唇かして?」

 口紅の蓋を開けて、ポンっとリップ筆を出してその紅を掬う。

 「唇少しあけて?」

 他の男に対しては危機感持って欲しいけど。
 オレに言われるままにする彼女は可愛い。

 「そう、上手」

 オレの小指が彼女の唇付近につける。
 口紅がずれないように。

 女の子らしい、柔らかい白い肌。

 こわしてしまいそうで、優しくガラス細工に触れるみたいに筆を動かす。
 彼女の薄いピンク色の唇がオレによって紅く染まる。

 白い肌によく映える淡い紅。

 「はい、おしまい」

 離れるのが惜しくなる。

 「すご〜く似合ってるよ、可愛い」

 パタンと蓋を閉じて、彼女の手にそれを預ける。

 「やっぱりオレの見立てに間違いなしって感じ!」
 「…アリガトウゴザイマス」

 照れて、カタコトになってる。

 「ちょっと待ってね、鏡は…っと。ごめん、トレイくんの部屋の壊れて貸してるんだった」

 なんて嘘にきまってるじゃん。
 動揺してる監督生ちゃんは気付きもしないけど。

 「でも似合ってるし、見てほしい…そうだ、はいっこっちみて?」

 彼女のほっぺに手を添えて、ぐいっと顔を上げさせる。

 「写真撮るから、」

 そんなの口実にきまってるでしょ。

 「オレのことだけ見てて、」

 パシャっ

 「ほら、いい感じに撮れた♪」

 熱を帯びた視線。
 そろそろオレだけを見る覚悟はできた?

 「ところでさぁ、知ってる?」

 本当は今すぐ、その口紅を歪めてもいいんだけど。
 もったいないし、時間をかけてオレだけに染めよう。

 意識的に彼女の耳元で普段より低い声を出す。
 彼女の熱を帯びた甘い吐息。

 あぁ、やっぱ限界。

 「リップ贈る意味」

 操り人形の糸が切れたみたいに、彼女の力が抜ける。

 

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