第9章 8杯目

　「ご馳走様、美味しかった」
　「お腹いっぱいになりました？」
　「うん♪」

　お腹もいっぱいで、オレの部屋には彼女がいて。

　「よかった」
　「また作ってくれる？」
　「もちろん」

　また一つ、監督生ちゃんといるための口実が増えた。

　「せんぱい」
　「なぁに？」
　「そっちに座ってもいいですか？」
　「積極的だね？」

　確かにオレも、2人を隔てるテーブルが邪魔だなって少し思ってたよ。

　「う…」
　「冗談だよ、おいで」

　ぽんぽんと、自分の隣を叩いたオレ。
　しつれられた犬みたいに、従順な彼女。

　それなのに、少しだけ距離を置かれたのは、悔しい。
　不満に思って、彼女と距離を縮める方法を考える。

　そうだ。

　「ねぇねぇ、コレ見て。部活中のリリアちゃん」

　彼女の前に携帯を出す。

　「わお、すごい派手」
　「ほんとだよね、」
　「でも楽しそうだし、似合ってる」
　「コレはカリム君。あとねー、こっちはフロイド君が気まぐれで楽器弾きに来た時の」

　画面を弾く。
　監督生ちゃんは、オレの携帯に吸い込まれるようにして近づいて来る。

　「先輩の写真はないんですか？」

　と、尋ねるように彼女が顔を上げた時、驚いた顔も可愛くて。

　「す、すっ、すみませんっ」

　焦ってる、耳まで真っ赤。
　このまま食べてしまいたい、と思うほどだ。

　「はは、監督生ちゃんってば、可愛いね」
　「っ！！」

　食人の趣味はないけど。

　「気にしてないから、ほら、もっと寄ってよ
　…あっ、見て。オレの写真あったよ」
　「え！みたいです！」

　すっと画面を胸元に隠す。

　「じゃあ、こっちに寄って？」

　渋々近づく彼女に満足気にはにかんで、その少しあとに彼女を逃さないと少し肩を借り、体重をかける。

　女の子ってなんでこんないい匂いがするんだろう。
　なんて、今まで思ったことなかったのに。

　「多分、誰かが送ってくれたやつ」

　こんなオレしらないでしょ？

　「あれかな、ラギー君かも」

　ねぇ、もっと知って？

　「ライブハウスでやったんだよね〜」

　彼女はその時まだこっちにいなくて。
　だから、その時のオレを知らない。

　君のことも、もっと教えて？