第9章 8杯目
『8.5杯目』
トントン、と聞こえてきたノックは4回。
『どーぞ』
オレは携帯をいじりながらベットに腰掛けていた。
監督生ちゃんが入ってきたから、携帯をいじる手を止めた。
「んー、美味しそうな匂いだね」
「へへっ、」
コトッとテーブルに置かれたそれはとても美味しそうで、何より彼女の手料理っていうことだけで、テンションが上がる。
「お口に合うといいんですが」
「合うよ、だって監督生ちゃんが作ったんだから」
いただきます、と手を合わせる。
少しラフな格好をしているオレになのか、
この空間になのか、
慣れないように視線を惑わせた後、恐る恐る聞いてくる監督生ちゃん。
「どーですか?」
「びっくりするくらい美味しいよ。辛くて。監督生ちゃんは食べないの?」
「トレイ先輩のケーキ食べ過ぎちゃって、お腹いっぱいなので。先輩が食べてるの、見られるだけで幸せなので」
モジモジしちゃって可愛い。
小動物みたいで、少し揶揄いたくなる。
「そっか、…って、なんか恥ずかしいかも。見られてるって思うと」
「っ、そうですよね!不躾にすみません」
「でも、悪い気はしない」
そう言って、口に運ぶ麺。
彼女の視線は彷徨う。
オレ言葉の意味は、きっと君に通じてない。
「ねぇねぇ、監督生ちゃん」
「ん?」
「一口どう?」
自分の中に湧き上がる、好奇心と加虐心。
「でも、」
「ほら、あーん」
ゆっくりと口を開けた彼女。
歯並びまで可愛く思うなんて、トレイ君にでさえ引かれそうなことを思う。
「んっ、」
ラーメンを啜るのが、少し下手な彼女をみて何故か満たされる。
間接キスってわかってる?
「辛い」
少しだけ不機嫌にいうけど、オレは好きだよ。
「でも美味しいでしょ。オレ、すきだな。コレ」
真っ赤に染まった目の前の彼女。
甘いのなんて好きじゃないのに、彼女は別みたいだ。
オレの好きなもののコレクションに、彼女の作ったものが加わる。
オレの好物だからってだけじゃない、重要なのは誰が作ってくれたか。
あぁ、白い肌がオレといるだけで赤く染まってく。