第9章 8杯目
言われるままに、する。
「そう、上手」
先輩の小指が唇付近に触れる。
そのあと、紅の少し冷たい感じが筆の感触と共におとずれる。
優しくガラス細工に触れるみたいに筆を動かす先輩の視線が私の唇に向いてるせいで、変に意識してしまう。
「はい、おしまい」
満足したのか、そっと離れる。
「すご〜く似合ってるよ、可愛い」
パタンと蓋を閉じて、私の手にそれを預ける。
「やっぱりオレの見立てに間違いなしって感じ!」
「…アリガトウゴザイマス」
「ちょっと待ってね、鏡は…っと。ごめん、トレイくんの部屋の壊れて貸してるんだった。
でも似合ってるし、見てほしい…そうだ、はいっこっちみて?」
私のほっぺに手を添えて、ぐいっと顔を上げさせる。
「写真撮るから、オレのことだけ見てて、」
パシャっ
「ほら、いい感じに撮れた♪」
もう、さっきから心臓もたないって。
(もう、むり)
「ところでさぁ、知ってる?」
(ひぃっ)
先輩の顔が近づく。
耳元で普段より低い声。
甘い吐息。
あぁ、やっぱ限界。
「リップ贈る意味」
遠のく意識の中で、
"そういうことだからさ、次は覚悟しといてね "
って、聞こえた気もする…。