第9章 8杯目
「さすがラギー先輩」
「写真館のバイトって言ってたかなー。偶々入ってたみたいで」
「へぇ」
後でこの画像、送ってもらお。
「この写真、ほしい?」
「え?」
「ラギー君にこのあと頼むのかなって思って」
そのつもりだったけど、やめた方がいい?
「な、なんでそれを」
「監督生ちゃんのことなら、分かるよ。なんとなく」
「…やめたほうがいいですか?」
「うん」
「ですよねぇ…」
とってもかっこいい先輩だったから。
赤い上着の下にきた黒いTシャツも、アクセサリーもとっても似合ってたから。
「ふふ、」
先輩は気にせず携帯をタップしてて、そのうちピロンっと、私の携帯の受信音が鳴る。
「え、ケイト先輩」
隣にいるのに?
「っ!!」
「こんなのでよければ、オレがあげるし」
肩から重みがなくなり、その代わり先輩が私を覗き込む。
そのグリーンの目が優しい。
ぽんぽんと先輩の手が私の頭に乗る。
「他のやつにメールする口実、簡単に作らせてあげるわけないじゃん」
ドキッと胸が鳴る。
…こんな先輩も、私知らない。
その目を見つめていれば、だんだんと近づいてくる距離。
思わずギュッと目をつむる。
ぴとっと、唇に何かが触れた感触で驚いて目を開ければ、先輩の指先がそこにはあった。
「ひゅっ、」
「ふふ、可愛いね」
指先が、唇をなぞる。
「あー、そうだ。ちょっと待ってね」
急に離れて立ち上がった先輩から、フワッといい香りがして、私の心拍数は凄いことになってる。
「どこに置いたっけな……っと、あったあった」
また、私の隣に座った先輩。
「今日のお礼って言うわけでもないけど、」
先輩の手に綺麗な装飾の口紅。
「軽音部でメイクするっていったら、ヴィル君が試作品結構くれてね?
監督生ちゃんに似合いそうだったから、貰ってきちゃったんだよね」
口紅を贈る意味、先輩は知ってるのかな…。
「あげるね…って、せっかくだしつけてみてよ」
「でも、」
「なーに?コレつけたとこ見たいなー、オレ」
「っ」
「…あぁ、じゃあオレがつけてあげるからさ、唇かして?」
口紅の蓋を開けて、ポンっとリップ筆を出してその紅を掬う。
「唇少しあけて?」