第9章 8杯目
今日は校舎じゃなくて、はーつらびゅる寮の調理室。
トレイ先輩に許可を得て、持つのは片手鍋。
赤に近いオレンジに染まったスープに硬くなった麺を入れる。
先輩が好きな辛いラーメン。
「いい匂い」
少しほぐして、麺に絡まった赤。
映えないかもしれないけど、心を込めて作ったラーメンを器によそう。
先輩の1人部屋へとそれを運ぶ。
トントン、とノックは4回。
『どーぞ』
そう言った先輩は、携帯をいじりながらベットに腰掛けていた。
私が入った瞬間、携帯をいじる手を止めた。
「んー、美味しそうな匂いだね」
「へへっ、」
コトッとテーブルに置く。
「お口に合うといいんですが」
「合うよ、だって監督生ちゃんが作ったんだから」
先輩は、いただきます、と手を合わせる。
先輩の手、長い指、好きだな…。
それから、下された前髪も。
寮服もかっこいいし、制服もかっこいいけど、やっぱり私服もいい。
「どーですか?」
「びっくりするくらい美味しいよ。辛くて。監督生ちゃんは食べないの?」
「トレイ先輩のケーキ食べ過ぎちゃって、お腹いっぱいなので。先輩が食べてるの、見られるだけで幸せなので」
「そっか、…って、なんか恥ずかしいかも。見られてるって思うと」
「っ、そうですよね!不躾にすみません」
「でも、悪い気はしない」
そう言って、先輩の口に運ばれてく麺。
私の視線は彷徨う。
先輩の言葉の意味さえ、よくわかっていなかった。
「ねぇねぇ、監督生ちゃん」
「ん?」
「一口どう?」
ものすごく見たいけど、先輩を辱めたいわけじゃないしって、なんか言葉がアレだけど。
だから、あまり見ないように視線を俯かせていると、先輩が悪戯に笑った。
「でも、」
「ほら、あーん」
先輩、なんか楽しそう。
仕方なく口をあける。
「んっ、」
ラーメンを啜る。
辛くて、だけど、先輩が一緒だからなんとなく甘い気もする。
「辛い」
「でも美味しいでしょ。オレ、すきだな。コレ」
顔が熱くなったのは、麺の辛さのせい?
先輩の好きなもののコレクションに、自分が作ったものが加わるのが嬉しい。
だけど、先輩に好きって言われるのは、いくら食べ物でもずるいな、なんて。