第8章 7杯目
「綺麗なまま残しておこうなんて、無理だよ。オレは、傷だらけにしてでも、彼女の中に残りたい。
染み付いて取れない、トラウマみたいに。
忘れようとしても忘れられないように、重くて良い、だから、邪魔するな」
初めて見るそんな先輩の表情に、想いに、オレは少しゾッとした。
「なら、せめて」
「…」
「せいぜい、オレに取られないように頑張ってくださいよ、センパイ。
オレをコマに使うな」
そう言うと、オレの手からそのカードが消える。
「オレは先輩みたいには戦わない。好きな女は、虐めるんじゃなくて守るもんだろ」
なんて、あいつのセリフを真似る。
…オレ、こんなキャラじゃないけど。
「エース君には、わかんないよ。オレの気持ちは一生。…だから、エース君はオレには勝てない。
監督生は、絶対にわたすつもりはない。
…話はそれだけ。
あと、このこと口外したら…………」
先輩がニヤッと笑った時、心臓が握りつぶされそうな痛みに襲われて、思わずひざまづく。
「っ、く、」
「脅しじゃなくて、本気だからね」
優しい口調のくせに、目に光はない。
コレほどまでの、思いとは…。
「はぁっはぁっ」
やっとその痛みに解放されたと思ったら、次の瞬間に先輩はいなくなってた。
「くそったれ、」
たった2年の差が悔しい。
ここでひざまづいたことが悔しい。
あいつへの気持ちはオレだって強いのに。
一瞬、負けたって思ったことが悔しい。
限りない愛を突き返し、
私はあなたに相応しいと、オレらしくない想いまで送ったのに。
クソやろう。
「エース、こんなところで何してんの」
「…監督生」
「ケーキ焼けたから呼んだきてって、トレイ先輩が」
「ハリネズミは?」
「デュースが見つけたってさ。鏡舎にいたんだって。見つかってよかったよね」
「そう、だな」
「立てる?」
「うん」
すっと差し伸ばされた手を取る。
「転んじゃったの?」
「そんなとこ」
「珍しいね」
ぱんぱんと裾をほろって、向き合う。
「ここ、ゴミついてる」
オレの頭に伸びてきた手を掴む。
「オレらしくないけど、やっぱりお前はマブなだけあるよ。オレのことちゃんとわかってる」
「えーす?」