第8章 7杯目
「トレイ君も、嫌な男だね。敵に回したくない」
やれやれとため息をつく。
「それは俺のセリフだ。ほら、はやくしろ。もうすぐケーキが焼きあがる。出来立てがうまいんだから」
「はいはーい、じゃあ。くれぐれも監督生ちゃんのこと、よろしくね。トレイ君も万が一なんてやめてよ?」
なんて、同級生相手にオレって少し情けない?
「わかってるよ、俺はリドルに手がかかってそれどころじゃないし。そうだ、リドルも心配してたんだから、後で上手くいっておけよ?」
「はいはーい」
適当に返事をして、オレはユニーク魔法を発動させる。
「お願いオレ君たち、エースくんを探してオレのところにつれてきて」
さーてと、きっちり牽制しないとね。
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「って、ケイト先輩?どこまでって、」
目の前で消えたカードに、してやられたと思いつつ連れ込まれたのは、薔薇の迷路。
そして、その奥の煉瓦が積まれて死角になってる場所。
「なんのつもりっすか?」
ぎしっ、と後ろで聞こえた枯れた枝を踏む音に声をかける。
「それはオレのセリフだよ、エースくん」
「ケイト先輩」
振り返れば、いつもは "温厚そうに見える" 3年生の先輩が居た。
「白い薔薇折ったんだって?」
「…あぁ。そのこと」
それは、オレがさっき監督生にあげたもので。
「そんなわけないよね、ハートの女王の法律で首を刎ねられちゃう。わざわざ用意して、渡す準備はいつでもできてたんじゃないの?」
「そりゃそーでしょ、まぁ?監督生はわかってなかったけど。…そうだ、アンタにも渡したいものがあったんすよ」
胸ポケットから出したのはハートのエースのカード。
「コレであいつのこと、縛るのは違うでしょ」
「なに?自分のこと差し置いて、オレに説教?後輩としてどうなの?」
「このカードのせいで、オレがあいつを傷つけてるみたいで、胸糞悪いって言ってんの。
せめて違うカードにしろっつーの」
と、先輩にそれを押し付ける。
「へぇ、……さすが、白い薔薇を綺麗なまま時を止めて贈った君は違うね。
…エースくん、本当にわかってる?オレたちは、彼女と住む世界が違うんだ」
「なにがいいたいの、先輩は」
先輩を睨む。