第8章 7杯目
「…それなら、仲直り、してくれますか?」
「その前に、オレたち喧嘩してたの?」
不思議そうに振り返った先輩。
「先輩の機嫌が悪いように見えたので」
「…そっか、まぁ。うん、オレもその節はごめんね」
バツ悪そうに笑った先輩。
「ところで、それ」
「はい?」
「監督生ちゃん、白い薔薇なんてそんなとこにつけてたっけ?」
「あ、いえ。コレ…エースがくれたんです。薔薇一輪折っちゃったからって」
先輩の顔が引き攣る。
だけど、すぐいつもの顔に戻って。
「枯れないように、魔法かけて」
「ふーん、」
「男のオレが持ってるのは…って本人が言ってました。
花が枯れないようにって、魔法かけるの優しいですよね」
「そうかな?
…綺麗なまま時間を止めるなんて、人間のエゴでしょ」
「え?」
一瞬、何となくすごく怖かった。
「なーんてね、よかったね」
「はい!」
だけどその後すぐ、いつも通り優しく笑ってくれたから。
「お腹すいたね」
「はいっ!あ、でも先輩あまいもの」
「トレイくんの魔法があるからへーき」
そんな先輩の言葉にひらめく。
「じゃあ、今夜また密会しませんか?」
久しぶりに普通に話せたから、だから、今日は先輩を独り占めにしたい…なんて、バレたくない気持ち。
先輩に、伝わっちゃってるかもしれないけど。
「ふふ、いいねぇ」
「今夜は、いつかの約束の通り激辛ラーメン作りますね!」
「やった、楽しみにしてるね」
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「すみません、遅くなりました!」
寮に着いた途端、どちらともなく離れた手に意味はない。
私たちの関係に、名前はないから。