第8章 7杯目
「わたしが、私が頼まれたので。ケイト先輩が、持つ必要はなくて、だから、大丈夫です」
だって、何も持ってない今の方が足取りが重い。
「女の子なのにこんなに重いの、酷いでしょ」
こんなに重い気持ちを持たせたのは、ケイト先輩のくせに。
なんて、見当違いの八つ当たりを思う。
「こんなの、全然重くないです」
「嘘」
「うそつきは、先輩のほう!」
と、無理矢理にでも荷物を奪い返そうと手を伸ばせば、そのせいで一つの袋が破れて、中身が落ちた。
「…あーあ。もう」
呆れたような先輩の声に、やってしまったと血の気が引く。
「監督生ちゃん、怪我ない?大丈夫?」
一旦荷物を、その辺の少し高くなってる場所においたケイト先輩。
先輩が荷物を拾うためにしゃがんだくせに、私が俯いたせいで目があってしまった。
私も拾わなきゃいけないのに、何だか久しぶりに見た優しくて大好きな視線に、感極まって、ポロッと涙が出る。
「え?…ちょ、どうしたの?」
もう一度立ち上がった先輩が、わたしの肩を持つ。
「どこか痛くした?そんなに、オレに手伝われるの迷惑だった?」
「…」
「ねぇ、泣いてちゃわかんないって」
先輩が優しいから、私がずるいから、泣けてしまう。
ちゃんと言葉にしなきゃいけないのに、うまくできない。
こんなに泣いたの、久しぶりだ。
地面に散らばったままの荷物たちをそのままに、先輩の匂いに包まれる。
ポンポンっと背中をさすられる。
その手がすごく温かくて、何だか余計に泣けてくる。
そうしてしばらく、無気力に抱きしめられたままいると、落ち着いて来て、涙が止まった。
きゅっと、先輩の背中に回した手で、先輩の服を掴む。
「どうしたの、」
「せんぱいが、優しいから、」
「オレ?」
こくっとうなづく、
「シルバー先輩と、お似合いって言わないでください、」
「え、」
「先輩にそんな気なくても、悲しくなります。それから、意地悪した後にこうやって優しくするのも、泣きたくなります。
あと、」
「待って待って、オレへのクレームで泣いてる?」
「はい」
「…わかった。それから?」
「先輩のユニーク魔法でからかわれるの、すごく嫌です。ドキドキしてる私、すごくバカみたいで、むなしくなるから、」