第8章 7杯目
「行くけど、」
「じゃあ、ケイト先輩との仲直り手伝ってやるから、もうその陰気なのやめろよな」
「エースが優しい」
「オレはいつでも優しいだろ?ほら、立てよ」
「うん」
胸ポケットのみんながマジカルペンを入れてる位置に、そっと白い薔薇をいれる。
「似合ってんじゃん」
「大事にする」
「当たり前。…やっと笑った」
「ん?」
「何でもない。早く行こうぜ」
私の分までカバンをもって行こうとするエースに、慌てて私もついていく。
「鞄、ありがと」
「途中でケイト先輩に会って、逃げられても困るし。人質」
受け取ろうとしたのに、ヒョイっと持ち上げてそれをかわす。
「逃げないよ」
「さぁね。我を失うでしょ、」
「そんなことないとも言えない」
「………なんでそんなにケイト先輩なわけ?」
「…ケイト先輩は、…月みたいだったから、」
「どう言うこと?」
「うまく言えないよ、」
前を歩いていたエースが、止まる。
そのせいで、背中にぶつかった。
「ちょ、」
「月、ね」
「エース?」
「わるい、何でもない。はぁ、誰かさんの話に付き合ったらお腹空いたわ。
ってことで、走るぞ!」
「わ、ちょ!」
掴まれた腕に伝わる熱がいつもよりあついこととか、
繋がれた腕のせいで向けられる外からの視線とか、
走っているせいで私たちを怒鳴る声とか。
そんなのどうでもいい顔して走ってるエースに、やっぱりどこか違和感を感じる。
息を切らしてるせいで、うまく口にできないけど。
現役の運動部、しかもバスケ部の彼のせいで、胸が痛い。
「大丈夫?」
鏡舎から、彼らの寮に着いた瞬間にスピードを緩める。
1人だけ平気そうな顔してムカつく。
ぼすっと背中にグーパンチを決める。
「何すんだよ」
「…はやすぎ、」
「監督生が遅いんでしょ」
息を整えようとする私の背中をさすりながら、…って本当に今日のエース優しすぎて変。
「エース、何か悪いもんでも拾って食べたの?」
「どう言う意味なわけ?グリムじゃないんだからしねぇよ、そんな事」
「グリムに失礼」
「その前にオレに失礼」
「だって、エース優しいから」
「…傷心してるやつに、冷たくしないでしょ。ほら、もうだいぶ楽になっただろ、いこーぜ。調理場」