第2章 1杯目
『1杯目』
今日もグリムは元気だ。
朝からマブ達とやらかし、一方の止めきれなかった私は、
監督不行き届きと言われ、
クルーウェル先生の手伝いをさせられ…………させていただいている。
まぁ、でも。
こんな知り合いも居ない世界で、家族への未練は少しありつつも、楽しく過ごせているのは紛れもなく彼らのおかげなので、甘んじて受け入れよう。
…………と、思っていたのは、5分前まで。
掃除が終わったから、報告に行くと目を離したのがいけなかったのかもしれない。
さっきまですごく頑張ったのに。
「すみません、クルーウェル先生…」
こっちの世界の馴染みのなさで、めちゃくちゃ"クルーウェル先生"って呼びにくいのに。
あっちの世界で"ウェル"なんてつくの、薬局かジュースくらいだっつーの。
なんてだいぶ偏見なことを思いながら、先生を見上げる。
先生だって忙しいのに、なんだか無駄足を踏ませて申し訳ない。
「もう一回、掃除し直しますね」
グットでもバットでもなく、それに応えるように憐れみの目をむけ、無言で頭を撫でてくる。
なんて柔らかい手つきなんだ…っと感動していると、放送がなって呼び出しを受けた先生は、華麗にもふもふの服を翻し颯爽と去っていきましたとさ、おしまい。
なんて言ってる暇もなく、残骸を片していると軽快な足音が聞こえて優しい声が鼓膜を揺らす。
「今日も、精が出るな。授業の片付けか?」
「トレイ先輩」
「疲れ切ってるな」
「マブ達の尻拭いです、全く。今日は軽音部に行きたかったのに」
「エーデュースか」
「ハイ」
「でも、軽音部に関しては、今日"は“じゃなくて、今日"も"じゃないのか?」
なんて意地の悪い、歯磨きおばけに、私は口を尖らせる。
まぁ、これもいつものことだ。
「うちの寮生がすまない」
そうすると、機嫌を取るようにフワッと優しく微笑んで、私の頭を撫でる。
クルーウェル先生といい、目の前の彼といい、この世界の人達は、私を犬か何かに見えてるに違いない。
そんなの、レオナ先輩かラギー先輩かジャックでも撫でとけばいいのに。
サバナクローだったら、3人と言わず選び放題だ。
モッフモフの獣人たくさんいるんだから。
…と、これは八つ当たりである。