第6章 5杯目
『5.5杯目』
「だそうです。フロイド、」
姿勢正しく監督生を見送り、監督生の死角へと座り込んでいた片割れに話しかけるのは、オクタヴィネル寮の副寮長である、ジェイド・リーチ。
「…聞こえてたし」
「見送って差し上げなくて、よろしいので?今行けば、間に合うのでは?」
こんな表情の兄弟を、見たことがなかった…と言ったら嘘になるかもしれない。
フロイドは、彼女がこちらの世界に来てからというもの、なにかとちょっかいをだしていたものの、全く相手にされず………
しかし、
彼女がバイトを始めてからは、少し様子が変わってきたものだと、少し微笑ましく思っていたのに。
彼がこんな顔をするときは、彼女の隣に違う"オス"しかも、彼が言うところの"ハナダイ“君がいる時が多い。
今日はそんな彼が彼女となにか、良からぬ不穏な空気で、昼に大食堂でそれを見ていた時は、ヴィランらしくいい笑顔を浮かべていたのに。
「どうしたんです、フロイド」
「…なんでもねーよ」
ぎゅーっと縮こまるように、自分と同じ大きな体を器用に折り畳んでいる。
「あなたが悲しんでいると、僕も悲しくなります」
「ちげぇーだろ、ジェイドのそれは面白がってる」
「おやおや、心外ですね」
「胡散クセェ」
「フロイド」
「…………別に、俺らと違って、ハナダイとは共生できねぇよって、教えてあげただけ。
ほっといても、食われそうだからオレが守ってあげるっていったのに」
クシャッと前髪を掴む彼を見て、小さい頃から慣れ親しんだあの話を思い出す。
「だって、小エビちゃん。自分からハナダイの方に行ったんだよ、吸い寄せられるように。あの水槽越しにさえ、餌って思われて捕食されそうになってんのに、嬉しそうに手ぇ伸ばすの馬鹿みてぇって思わねぇ?」
「…」
「あんな弱っちくて、それなのに…」
「フロイド、珍しいものに惹かれるあなたの性格、とても素敵だとは思いますが、陸に近づきすぎてその身を焦がし、泡になって消えないようにだけしてくださいね。
……あなたは、僕が選んだ片割れなので」
「お互い様でしょ、ジェイドだって。陸のもん、集めてんじゃん」
「僕はあなたのように、敵に塩を送るような真似はしませんよ」
ピタッと、止まる片割れ。
マジカメの通知音に肩を揺らす。