第6章 5杯目
『5杯目』
拝啓、三次元のお父さんお母さん
どうして昨日、エンカウントしたのがシルバー先輩だったんでしょうか
いや、めっちゃいい匂いしたけど
ありがたかったけど
先輩の分身が探してくれてたなら、先輩のお姫様抱っこを味わえる世界線だってあったのではないでしょうか
私のことが気がかりで、寝れない夜をお過ごしでしょうが、私もこのすんざくような胸の痛みで、今夜は寝られそうにありません
どうぞご自愛ください 敬具
ベターっと、ラウンジのカウンター席に全て身を預けながら、ボケーっと眺めるのは、大きな水槽。
ラウンジの目玉だ。
水槽越しに溢れる青白い光が、幻想的にその場を照らし出してる。
トボトボと、重い体を起こしそこまで彷徨って行ったのは、優雅に泳ぐ一匹の魚に目を奪われたから。
赤くて綺麗。
青い水に映えてる。
なんて言う魚だろう…
ゆっくり水槽に手を伸ばすと、その魚も私の方に来る。
可愛い。
足音もせず、私の正面にできた大きな影に驚いてどこかに行ってしまった魚。
ガラスに写っているから、私はビビりもせずゆっくりと首だけ振り返る。
「こーえーびーちゃーん。何してんの?こんなところで」
着崩された制服。
先輩ももう帰ってきてたんだ。
ぎゅーっと抱きつかれて、いつもは逃げるけど今日は試しに、身を預けてみると、彼の体がビクッと揺れた。
「な、」
キュッと、先輩の喉が鳴ってる。
「ふ、」
「な、なぁに?小エビちゃん」
「先輩から、ずいぶん可愛らしい音がするなぁと思って」
ばっと離された温度に、私は顔を上げる。
「今日は、お仕事休みなのにラウンジにいるんですか?」
「それは小エビちゃんもでしょう?」
「まぁ…はい。1人になりたかったもので」
「イシダイセンセイが、怒って探してたよ。小エビちゃんのこと」
「いいんです、今日は。いっつもエーデュースがサボってるので、今日くらいかわってもらうんです」
少し黙り込んだ先輩は、
「なら、新メニュー考えるの手伝ってよ」
「先輩が作るんですか?」
「まぁね。アズールから言われてたからぁ」
そう言いつつも、今日は気分がいいらしい。
私の手を引いて、厨房に向かうと腕まくりをして手を洗い始めたフロイド先輩。