第5章 4杯目
『4杯目』
「お前、昨日お姫様抱っこされたんだろ?」
お昼時、食堂でトンデモ発言をしたのは、マブ、こと、エースである。
「そうなのか??」
「昨日、帰ってきてから、こいつシルバーの匂いしてたんだゾ。オレはお腹空かせて待ってたのに!もごっ」
「さ、ぐりむー、お腹すいてるもんね。こっちも食べていいよー。あ、エースもお腹空いてるんだっけ」
ギラッと目を光らせて、ターゲットの口に向かって硬めのコッペパンを構える。
「ちょ!タンマ!!持ち方凶器のそれなのよ!やめてくれない?!」
「辞世の句、読む準備はできた?」
「じせいのくってなんだよ!!」
「この世の終わりを感じて、来世に残すための句よ。ほぼそんな感じよ!さぁ、エース覚悟!」
【off with your head!!】
賑やかな食堂に凛とした声が響く。
「何すんだよ、寮長!」
「リドル先輩!!」
「二人とも、およし。食事は静かに摂るものだ。ハートの女王の法律以前に、マナーの問題だよ」
「だって!リドル先輩!昨日マブって言いながら、探しにきてくれなかったくせに、意地悪ばっかり言うんだもん!エースが悪い!」
「はぁ?迷子って言うから、電話してやったじゃん!
何回も着信入れたのに出なかったのはお前だろ!」
いーっと顔を突き合わせてエースを睨むと、後ろからトレイ先輩の声がする。
「監督生も、エースもそこまでにしておけ」
「お兄ちゃん」
「お前はいつもそれだな」
「トレイ先輩と事実上の兄弟にでもなれれば、あわよくばケイも」
ケイト先輩と、もう少しだけお近づきになれるかも知れない!
と、言いかけて慌てて、口を塞ぐ。
トレイ先輩の後ろで、大好きなオレンジの髪が揺れたから。
「オレがなーに?」
ほっぺに描かれたダイヤが恨めしい。
なんてかっこいいの?
いや、可愛いの?
いや、ケイト先輩を形容する言葉なんて、日本語を持ってしてでも難しくない?
言葉を超越してる先輩、陳腐な言葉でごめんなさい。
私にあまりにも語彙力がないせいで、こんなに大好きなのにいつだってちゃんと伝えられた試しがない。
そう思っていたところで、
ニヤッと笑ったエースが、目の端にうつった。
そして、ガタガタと立ち上がるとケイト先輩の方に行く。