第3章 場地圭介(社会人)×千冬の親友ヒロイン(大学生)②
ちらり。私の目にとまるのは、形のいい場地くんの唇や少し武骨な男らしい手ばかり。この唇に、この手に、私はこの間……。
「ちゃん?」
「ひゃい!」
「考え事か?」
「は……はは、まあね」
「役に立つかどうかはわかんねェけど、聞くくらいはできっから。何かあったら言えよな」
「うん、ありがと」
なんて言われたけど、言えるわけがない。あなたの唇や手を見て前の情事を思い出していましたなんて言えるわけがない。
あの日から──私は場地くんのことばかり考えている。オナニーのときも場地くんとのことを思い出しながらすると、少しは濡れるようになった。だけどあの弾けて溶けるような快楽にはほど遠くて……また味わいたい、なんて思いが日に日に強くなっている。あのとき場地くんに言われたとおり、私は変態なのかもしれない。
それに──最後までシたらどんな気持ちになるんだろう? 思春期の子どものように、性への興味が止められない。
「食いてェもんある?」
「こってり系」
「家系ラーメン?」
「いいねー」
口が臭くなったらそういう気も起きないかも、なんて邪推しながら場地くんの隣を歩く。少し賑やかになってきた町の様子を感じていたら──。
「?」
私の記憶から抹消したい声が聞こえてきた。
「だろ? 久しぶりだな」
「誰? こいつ」
「……元カレ」
「あー」
噂の、元カレな。とでも言いたげな場地くんはあからさまに嫌そうな表情をしたあと、私の肩を優しく抱き寄せてくれた。
そんな私たちを交互に見た元カレは一緒に遊んでいたらしい友人たちに「元カノめっちゃ可愛いじゃん」「別れたとかもったいねー」なんて好き放題言っわれている。うるさいぞ外野、もうこっちから願い下げだわ、こんな男。
「そんなこと言ったってこいつマグロ女なんだぜ?」
「──え」
元カレの思わぬ発言に背中からぶわっと嫌な汗が溢れだす。待て待て待て待て、こんな大勢の前で何言っちゃってくれてんの? 嘘でしょ?