第1章 場地圭介(高校生)×幼馴染みヒロイン(先生)
「荷物持ちますよ」
「これくらい自分で運べます」
「そう言わずに、ね」
するりと撫でるように触られた手の甲が気持ち悪すぎて……思わず尻尾を急に踏まれた猫のように大げさなほど肩を揺らし、持っていた書類を全て床にぶちまけてしまった。オー、ジーザス。紙だけじゃなくて神にすら見放された私。なんつって。
しょうもないな私……なんて自分に自分で呆れながらしゃがみこんで、落としてしまった書類を拾い集める。すると私の手を追いかけるようにしてやってきたーー。
「手伝いますね」
野郎の手は、落ちた紙ではなく真っ直ぐに私の手へとやってきた。ーーって、は?
合意のないボディタッチはただの暴力だって親から教わらなかったのかしら? ゆるりと握られたその手からは嫌悪感からしか感じられず、更には怒りもこみ上げてくるもんだから……一発くらい顔面に拳叩き込んでもいいわよね? 正当防衛よね?
そう自己完結して、拳を握りしめたところで「センセー」と気の抜けた声にハッと顔を上げる。そこにいたのは少し不満げな顔をした七三眼鏡の場地くん。
「今日のジュギョーでわかんないとこ、教えてくれるつったじゃん」
「こら、場地。先生に向かってそんな言葉使いはよくないぞ」
「これ運んでやるから早く行こーぜ」
「おい! 場地!」
「何? 俺、今センセーと話してンだけど」
そう言って床に散らばった資料を拾ってくれる場地くんは、谷田部先生の言葉に顔を色ひとつ変えることなく、平然と手を動かし続けている。ずいぶんと肝が座っていらっしゃることだ、まだ十六歳の男の子なのに。
いつまでも私の手を握り締めてくる邪魔な手を勢いよく振り払って立ち上がる。トントンと紙の束をまとめてくれる場地くんにお礼と謝罪を言いながら、資料を半分持とうとしたら「こンくらいヘーキだから」と全部持ってくれた。くぅ、イケメン。谷田部、ほんと場地くん見習え。