第1章 場地圭介(高校生)×幼馴染みヒロイン(先生)
「先生、お疲れさまです」
「あ……谷田部先生。お疲れさまです」
小鳥のさえずりが聞こえてくる朗らかな放課後。明日の授業で使う資料を理科準備室へ運んでいると、先輩教師の谷田部先生に声をかけられたのでそちらを振り返り、軽く会釈をする。
顔も良くて、人当たりも良くて、生徒にも親にも人気な谷田部先生。でも実は私、この先生が苦手なんだよね。なんでかって言うとーー。
「おいしいフレンチのお店を見つけたので、今度一緒にいかがですか?」
会うたび会うたび口説いてくるから。
生徒がいないところとで口説いてくれるのはまだありがたいけれど、だからと言って迷惑じゃないのかと言われればーー果てしなく迷惑。ほんっっっと迷惑。
自己中心的とはこの人のためにあるんじゃないかと思えるほどには、自己中な人だ。私的には自由の意味を吐き違えているんじゃねーぞ、この野郎! とでも言いたいところだけれどね。言わないであげる私ってば優しすぎる。
「すいませんがそういうお誘いはお断りさせていただいています」
「生徒のことで相談があるので、ぜひ聞いていただきたいんです」
「そういうことなら学校と聞かせていただきますし、新任の私より適した方がたくさんいらっしゃると思いますよ」
ツンとした態度を崩すことなくガン無視で荷物を運び続けるも虚しく、私の隣を歩いてくる顔だけの男に心の中でため息をつく。
ここが学校じゃなければ暴言をはきまくって泣かせていたかもしれないから、逆に学校でよかったのかもしれない。命拾いしたな、この野郎。ここが学校だったことに感謝しなさい。ふははは。
私が心の中でこんなことを思っているとはつゆ知らず、当の谷田部先生は私の横をぴったりとマーキングしていた。うざっ。