第2章 場地圭介(社会人)×千冬の幼馴染みヒロイン(大学生)①
「仕事楽しい?」
「おー。みんな可愛くていつまで見てても飽きねーの」
「それ、仕事してる?」
「仕事しながら見てる」
「そっかー相変わらず好きだね、動物」
「おう。ちゃんも大学楽しいか?」
「ん? ……うん、大学は楽しいよ」
場地くんの言葉にふっと人の影が一瞬よぎって少し返事に間が開いてしまう。……うん、嘘は言っていない。だって大学は楽しいもの。そんな私の考えを全て見透かしてしまいそうな視線をこちらに向ける場地くんは「ふーん」と 興味があるのかないのかよくわからない生返事をしながらペケを触る手を止めた。
もう触ってくれないと察した瞬間、ペケは場地くんの元から去っていき器用に窓を空けて午後の散歩へと繰り出したご様子。……私もこの空気感から逃げ出したいのですが。
「で?」
「……で? とは?」
「何かあったんだろ?」
「場地くんには何でもお見通しなんだなあ」
今思えば昔からそうだったかもしれない。私がヤンキーの喧嘩に巻き込まれて泣くのを必死に我慢していたのも一瞬でバレたし、好きな人ができたときも相手が誰かまで早々にバレてしまったこともある。そう思うと、私は場地くんに何一つ隠し事をできていない状況なのが痛いほどよくわかる。
私、そんなにわかりやすいのかなあ?
「んー……とね。こないだ彼氏と別れたの」
「ハ? 付き合ったばかりだったじゃねーか」
「うん、そうなんだよね」
「何が原因なんだよ。男が浮気したとかだったらブッ飛ばしてやろうか?」
「……いっそ浮気のがよかったかも」
はあ、と大きなため息と共に落ち込む私を見て怪訝そうに片方だけ眉毛を吊り上げる場地くん。そう、いっそ浮気の方がまだよかった。
「……だって」
「ワリ、聞こえなかったワ」
「……セックスできないから、だってさ」
私がそう言うといつもは切れ長な目をこれでもかと丸くさせた場地くんは、ツチノコでも見つけたの? とでも訊きたくなるような顔で私の方を見ている。……いたたまれない。やっぱりこの話はするんじゃなかったかな……うまく流しとけばよかったかも。