第2章 場地圭介(社会人)×千冬の幼馴染みヒロイン(大学生)①
「千冬ーいるー? 漫画の新刊持ってきたよー」
呼び鈴を何度か鳴らしてから、同じアパートに住む幼馴染みの家へと無遠慮に上がっていく。私の大学の抗議が終わったくらいに家にいるって言っていたから、いないはずはないんだけどね。そう思いながらズカズカと彼のいるであろうリビングへと向かいながら、何で返事してくれないんだろう? と首をひねる。聞こえなかったのかな……まぁまぁデカい声だったけど。
「ちふ──」
「千冬ならいねーぞ」
「場地くん?」
「よォ」
松野家に来たはずなのに、そこにいたのは場地圭介くん……と黒猫のペケ。家主を差し置いてめちゃくちゃくつろいでいらっしゃいます。
え? 私ちゃんと松野家に来たよね? 場地家に来てないよね?
「千冬なら店だぞ」
「何で私の言いたいことわかったの? 場地くんエスパー?」
「ンなわけあるか。勘だ」
野生の勘がスゴすぎて。何て返そうか悩んでいると「仕事立て込んでてすぐには帰ってこれないってよ」とこれまた私の気持ちを汲み取ったのか、場地くんはこちらを見ることもなくペケと触れあいながら息をするように言葉をはいた。
だから何で私の言いたいことわかるの。やっぱエスパーじゃん。
「何で場地くんは千冬の家にいるの?」
「このあと飯行く予定があんだよ。それまで暇だからペケと遊ぼうと思って」
「なるほど」
中学生の頃から仲良しな場地くんと千冬。千冬と仲のいい私も必然的に場地くんといることが多くなったので、彼のことはまあまあ理解しているつもりだ。例えば無類の動物好きだということとか、女の子にも男の子にもめちゃくちゃモテるとか、そういったこと。
ソファに寝転がっていた場地くんはその上半身を起こすとペケを抱え直して、人一人分の場所を空けてソファに座り直した。どうやら私に場所を譲ってくれるらしい。漫画渡したらすぐ帰ろうかと思ってたけど……たまには場地くんと二人で話すのもいっか。今日はバイトもないしね。
そう思い場地くんの隣に腰を下ろすと、にゃーんとまさに猫なで声をあげたペケが私を出迎えてくれた。可愛いやつめ。