第8章 見つめ直す過去
「いつも?」
「あ…ごめん。なんでもない。」
そう、なにも初めて夢にうなされて吐き気をもよおした訳ではない。
よくある事なのだ。
「。お前はおれの船のクルーだ。もう2度とあんなやつに振り回される事はない。もう自由なんだ、おれもお前も」
それは、雪の降るあの島でコラさんが言った言葉だった。
自由。
もう何に縛られる事もないのだ。
「うん…っ…」
「おまえのそれは、精神的なやつなんだろうすぐに良くなるわけじゃない。
だから、覚えておけ。もう1人じゃない」
「ロー…」
なんだか、ローに会ってから泣いてばかりだ。
いや、いつも泣いてばかりいたけれど、これは辛くて泣いている訳じゃない。安心と嬉しさが含まれた涙だ。
こんなにも情けなくて弱いのにローは向き合おうとしてくれる。
私もそれに応えたい。
「なんでそんなに優しいのさ。子供の頃はそんな事なかったのに」
「あの頃は…全てを壊したかった。どうでもよかった…だが今は違う。」
「…」
変わったんだ。
私も変わりたい。
「私も…自由になれるかな」
「なれ。誰にもお前を縛らせない。」
吐き気はいつのまにか何処かに行ってしまって、いつのまにか私の背中をさすってくれていた手のひらは、私の手を包んでくれていた。
「あのね、ロー…私変わるよ。変わりたい。
でもね、何度も夢を見るの13年前のあの日の事とかアイツに良いようにされることとか…絶対に何回も泣いたりさっきみたいに吐いたりすると思う。
でもきっと変わるから。」
「気長に待つ。」
「ありがとう」
ローの手のひらを握りかえすと、びっくりしたように引かれた。
無意識に手を重ねていたようだ。
悪い気はまったくしなかったのに、ローの手はもう彼のポケットの中に隠されてしまった。