第1章 貴方は誰を選びますか (烏 青 音 梟)前編
『…黒尾さん?』
追いかけることが出来ずに遠くなる孝ちゃんの背中。私を抱きしめたままの黒尾さんの腕に更に力が入った。
「…ごめん…。
今だけ…独り占めさせてくれ。」
『でも…もう戻らないと…』
「うんわかってる…ほんと少しだけ…。」
『黒尾さん…どうしたんですか』
私の肩に顔をうずめて子供のようにわがままを言う珍しい黒尾さんの頭を撫でる。
「…久々会ったから充電してました。
引き止めてごめんな、先戻ってて。」
『…分かりました。黒尾さんも指消毒したいので早く戻ってきてくださいね。』
「ん、すぐ行く」
少しだけ溶けてきた保冷剤を濡らしたタオルに巻き付けて体育館へと戻った。早く研磨くんの足冷やさないと…悪化する前に。
『すみません遅くなりました!
保冷剤の場所がわからなくて…迷子になってました』
「いやいや、ウチはマネージャーいないからね。いてくれるだけで幾分か助かっているよ。ありがとうね。」
優しい猫又監督の言葉にほっとする。
『いえ、とんでもないです!
あ…研磨くん。すみません猫又監督、タイムアウトもらってもいいですか?研磨くんが多分足痛めてます。』
「研磨が…?そうか。では…」
すぐにタイムアウトをとってくれた猫又監督
控えのセッターがいない分、研磨くんが出られないとなると困るはず。少し冷やしてテーピングすれば十分だとは思う。
「別に流れ悪くないのにタイムアウトって…どうしたんすか」
不思議そうなモヒカンさんが監督に聞く。
『あの…研磨くん足痛いでしょ?』
「え?…なんで分かったの?」
『無理な体制でセットアップしてたし
一瞬痛そうな表情したから…かな。』
「少し…ほんとに少しだけ痛いんだ…。」
『テーピングして少し冷やそう。
試合は普通に出られると思うから。
はい、研磨くん足出して』
「…うん」
ベンチに座らせた研磨くんの足を自分の太ももに置いてまずは濡れタオルで拭く。それから痛めたところを補助するようにテーピングをして少し冷やしてみた。
『…どう?』
「うん、さすが。大丈夫そう。」
『よかった。
…あ、黒尾さんも指!』
俺は大丈夫、と繰り返す黒尾さんにも
一応指にテーピングを施しておいた。
悪化してほしくないもの。