第1章 貴方は誰を選びますか (烏 青 音 梟)前編
「…あのさ。
盗み聞きするつもり無かったんだけど。」
『うん。』
「…また助けて貰ったって…なに?」
『…っ』
聞くつもりなんてなかったけど
この沈黙に耐えられなくて口を開いた。
「から話してくれるまで待とうって決めてたんだけど…」
『…話すよ。』
「え?」
『孝ちゃんに心配かけたくなくて黙ってた。けど話す。もう孝ちゃんの傷ついた顔みたくない…さっきはごめんね。』
「いや…俺こそ急に引き込んで悪かった。」
『私中学生のときにね━━━…』
泣きそうになりながら、しっかりとゆっくりと紡がれた言葉。俺は自分の耳を疑った。そんなことをする教師がいるのかと。
「っそれで…そのあとはどうなったの…」
『先輩が助けに来てくれたから大丈夫だったよ。その先生もしばらくして別の学校にうつったし…、だけどその日から男の人が怖くて…』
「…」
『この前1人で帰った時にね、知らないサッカー部の人に連れていかれそうになって…困ってたらたまたま旭さんが通り掛かって助けてくれたの。それに今日も追いかけてきてくれて涙止めてくれて…だから “また”助けてもらったなーって。』
だから大丈夫だよ、って困ったように笑う
「…っ」
『ん?』
「ごめ…ん、ちょっと抱きしめさせて。」
『うん』
小さく震えていることに気づいていない彼女を引き寄せて抱きしめた。
「…ごめんな。」
『孝ちゃんなんにも悪くないよ?』
震えてるくせに俺の背に手を回して
孝ちゃんって名前を呼びながらさすってくれる
「俺…なんも気づいてやれなかった。
のこと怖がらせた…ごめん。」
『どうして孝ちゃんが謝るのよ…
勝手に怖がってごめんね…もっと早く話せばよかった。孝ちゃんが怖いんじゃないの…急にね、触れられたりすると誰でも怖いの…ごめんね。』
「俺…気をつけるからさ…
だから俺から離れてかないでくれ。
怖がらないで…お願い。」
あぁなんてダサいことを言ってんだろう。
だけどこれが俺の本音。
怖がらせないように気を付けるから
俺を怖がらないで…離れてかないでくれ。
もう二度と…遠くに行かないで。