第1章 貴方は誰を選びますか (烏 青 音 梟)前編
side夢主(過去story)
中学2年生の夏休み。
学校には生徒も先生もあまりいなかった。
黒尾さん達OBが来るからバレー部の練習を見にこないか、と研磨くんに誘われてその日私は学校にいた。
体育館のギャラリーには女の子がたくさんいた。
「あれ、ひとり?」
体育館からギャラリーへと聞こえてきた
私に話しかける無気力な声。
『研磨くん!うんひとりだよ〜』
「そっか。終わったらクロと3人で帰ろう」
“クロ”その名前が出ただけでザワつくギャラリー。私の2つ上である“クロ”こと黒尾さんはもう卒業している。黒尾さん目当てでバレー部の見学に来る女の子はすごく多かったから…研磨くんの口から出てきた名前に皆んな目の色が変わったように見えた。
『うん!練習頑張ってね!』
「…頑張るから頭撫でて。
俺暑くて溶けちゃいそ…。」
『遠くて無理だよ〜ははっ』
ギャラリーの上から手をポンポン、と頭を撫でる仕草だけ返してみる。研磨くんは少し笑ってからギャラリーへと上がってきた。
「あんなのじゃ頑張れない。
上がってきたから直接撫でて。」
「おやおや〜?研磨は甘えたくんですかァ〜?」
「うるさいクロ。はやく…」
突然現れた黒尾さんにギャラリーのザワザワが絶頂になる。
『よしよし研磨くんっ
練習頑張ってください!』
「ん…頑張る。
あとぎゅーも。」
『はい、ぎゅーっ
終わったら3人で帰りましょうね』
「…また敬語になってるよ。やだ。」
研磨くんは敬語を使われることを嫌がった。
1つ年上の研磨くんを最初は孤爪さんって呼んでた。だけど部活が一緒な訳でもないし距離感じるしやめてって言われた。それでも先輩な事に変わりは無かったからたまに敬語がでてしまう。
「ほら研磨、いい加減離れなさい?
次は黒尾さんの番ですよ?」
そう言って黒尾さんは研磨くんを引き剥がして私を自身の腕の中へとおさめた。私の頭を撫でながら 「俺も撫でてくだサイ」 っていたずらっぽく笑う。
『黒尾さんも頑張ってくださいー!』
「は〜癒される。頑張りますかーっ」
ツンとした髪を撫でると満足した黒尾さんは研磨くんを連れて練習へと戻って行った。