第1章 貴方は誰を選びますか (烏 青 音 梟)前編
本当に誰もいない教室に
机を挟んで旭さんと向かい合わせで座る。
「ちゃんて白濱と知り合い?」
『あ、いえ。旭さんのクラスが分からなくて困ってたら声掛けてくださって…!』
「そっか、俺が行くって昨日言えばよかったね。
でも入れ違いにならなくて良かったよ」
『そんな、私の話を聞いてもらうので…
ですね、白濱さんに感謝です!』
「あ…えっと弁当食べてもいいかな?
俺すっげぇ腹減ってて…はは」
『もちろんです!
食べながらでいいので聞いて欲しいです。』
「うん分かったよ。
じゃあ、いただきます。」
丁寧に包みをといてお弁当をあける旭さん。
『あ、どうぞ…っ』
「…え、めちゃくちゃうまい。
冷凍食品ひとつも入ってない…?」
『たしかに冷凍食品ってあんまり買わないかもです。』
「すっごいうまいです…!
しかもなんかバランスも良さそう…」
『お口にあって良かったです!
バランスも考えてみました…っ
旭さんはうちの大切なエースなのでっ』
エースに揚げ物ばかり食べさせるわけにもいかず、いつもは好きなものを適当につめるお弁当も今日は少しバランスを考えて作った。美味しい美味しい、と食べてくれるからまた食べて欲しいな、なんて思ってしまう。
「そんな…大切だなんて…って俺の話じゃなくて!ちゃんの話!聞かせてくれるかな?」
『はい。結論から言うと…』
机の上でキュッと拳を握ってしまう。
『私…男の人に触れられるのが怖くて…っ』
「それはえっと…きっかけになる事があったのかな?」
食べる手を止めて俯いた私の顔を覗き込むようにした旭さんが優しい声で聞く。
『引かないで…くれますか?』
「約束するよ」
『東京にいた時に学校の先生に襲われたんです…』
「え…学校の先生…?」
忘れたいのに忘れられない
思い出したくないと思えば思うほど
鮮明に思い出される記憶
あの人の顔が、声が、触り方が…
全部覚えてる…
『はい。私が中学2年生のときです』