第1章 貴方は誰を選びますか (烏 青 音 梟)前編
〈おはようございます
昨日はありがとうございました!〉
〈実は私も一緒に寝た時のこと思い出してました〉
〈朝練頑張ってください!〉
メッセージを送ってすぐ振動する携帯。
〈また一緒に寝てやろーか?〉
〈おう、研磨にもよろしく伝えとくわ〉
悪い笑顔をしながら文字を打っている黒尾さんの顔が思い浮かぶ。忘れたくても消えてくれないあの日、震える私に手を差し伸べてくれたのは黒尾さんだった。落ち着くまで何日も何日もそばにいてくれた。
「大丈夫だからな、俺がいる」
そう言って抱きしめながら寝てくれた黒尾さんは温かくて優しくて、だから黒尾さんに触れられるのは怖くない。むしろとても落ち着く。孝ちゃんに抱きしめてもらうのと同じくらい落ち着く。
〈はい、また一緒に寝てください〉
〈研磨くんによろしくです!〉
そう返して携帯を学校のバッグへとしまった。
準備を終えて玄関の扉をあけると見えた人影
「おはようっ」
『おはよう孝ちゃん』
私たちは毎日一緒に登校している。
別に約束しているわけではないけど、私が孝ちゃんの家に泊まらない日は毎朝こうやって迎えに来てくれる。
「昨日は1人で帰らせてごめんな」
眉を下げて謝る孝ちゃん
『途中で旭さんに会って一緒に帰ったの!
それにあと1年で卒業なんだから思う存分バレーしなよ!私の事なんて気にしないで?』
「卒業かぁ…そうだな。さんきゅ!
あ、てか旭と一緒に帰ったのか?」
『うん、たまたま会って一緒にね』
「そっか、そんなら安心だな
アイツ見た目怖いからな!」
『あはは、でもすっごい優しい人だよね』
「旭ひげちょこだからな〜」
『ふふ、なにそれっ』
他愛のない会話をして2人並んで登校して
最近はダッシュで来るから待っててって
3年生の下駄箱で上履きに履き替えてから
ほんとにダッシュでこっちの下駄箱まできて
教室まで送ってくれる。
「んじゃ、またな!」
『うん、またね孝ちゃん』
昨日あった事をわざわざ孝ちゃんに言う必要は無い。きっとすごく心配させちゃうから。