第1章 貴方は誰を選びますか (烏 青 音 梟)前編
『わた、し…帰らないと…』
そうだ。孝ちゃんの家に帰ろう。
そしたら孝ちゃんママがいる。
このまま自分の家に帰って1人は無理。
「いやいやそんなこと言わないでさ?
立ち話もあれだからどっかで休憩しない?」
1人が私の手首を引いて歩き出す。
その手の感触が気持ち悪い。
離して!触らないで!言いたいのに声が出ない。
早く早くって他の2人が背中を押すから
女1人じゃ敵わない…たすけて…誰か。
だけどこのままじゃほんとに連れてかれる。
どこに向かってるかなんて分からないけど
このままは絶対にダメな気がするから。
勇気をだしてグッと立ち止まった。
「どうしたの?早く行くよ?」
さっきよりも強い口調。
『わたし…行かないです…!』
「キミ1人くらい担いで運べるんだよ?」
たしかに…そうだ。どうしたらいいの…。
怖い。怖い。怖い。息が上手くできない。
『離して…くださ…「ちゃん?」』
曲がり角から現れた大きな影。
『あ…さひ…さん?』
「3年の東峰だ…」
アズマネ…?この人旭さんだよね…?
1人が呟いて他の2人は震え出した。
旭さんはすごく優しい人なのに。
「君たち何してるの?」
ほら、いつもみたいに優しい口調。
「「「す、すいませんでしたあああ!!」」」
なのにサッカー部の人たちは逃げてった。
何が何だか…分からないけど…。
全身の力が抜けていく。
『あさひさ…んっ!』
駆け寄って私の目の前にしゃがんだ旭さんに思わず抱きついた。この人は怖くない。分かってる。大きくてあったかい手が私の背中を撫でる。
「どうしたの?なにがあったの?
連れてかれてるように見えたんだけど…いや、俺なんかに話したくないよな!聞いてごめん!えと…家まで送るよ…?」
『ごめ…っなさい…っ
練習疲れてるのに…ぅぐっ』
「あ、いや全然それは…っ
な、泣いてる…!?ああどうしたらいい!?」
『ふはっ』
「え、なにっ!」
私よりもアタフタする旭さんに思わず吹き出してしまった。見ためと真逆の優しい心の持ち主。たまたまだけれど旭さんが通りかかってくれて良かった。あのまま誰も来なかったら、と思うと震えが止まらない。