第1章 最悪な関係の始まり
連れてこられたのは保健室。
ベッドに下ろされ、とりあえず無事でいれた事にホッと胸を撫で下ろす。
ただ、扉へ向かった彼が鍵を閉めたのが、私の不安を深くした。
「な、んで……鍵……」
必死に絞り出した声が、思っていた以上に小さく震えていた。
振り向いて、片方の口角だけを上げて笑いながら近づいて来る。
ベッドから立ち上がったけれど、すぐに戻された。
脚が長いからか、戻って来るのが早かったせいで、逃げるタイミングをなくしてしまって焦る。
「いい所邪魔されちゃ、困んだろ?」
ベッドに両手をついて、迫ってくる彼から逃げようと後退りするけれど、何せ保健室のベッドなんてそんなに大きくない。
すぐに終わりが来て、逃げ場がなくなってしまった。
「怯えちゃってぇー……。最初見た時思ったけど、お前、小動物みたいだよな、可愛いねぇ……」
長くしなやかな指が伸びて来て、肩までの髪を掬い上げる。
ニヤリと笑って見つめる、色気のある仕草と冷たい視線がやっぱり私は苦手だ。
「俺が、怖いか?」
当たり前だ。この人はこの時間を楽しんでいるみたい。
私は逃げたくて、帰りたくて仕方ないのに。
けど、多分助けが来る事もないし、逃げる事も出来ないだろう。
目の前が真っ暗になる気分だった。
「あ、あのっ、な、何が……し、たいんですか?」
自分で聞きながら、今私の頭の中では最悪の考えが浮かんでいた。
お願いだから、当たらないで。
「あぁ? 男と女がベッドの上でする事っつったら、一つしかねぇだろ」
嫌な予感というのは、何で当たるんだろう。
冗談はやめてと言いたいけど、この人の目を見てそんな事言える訳もなく、ただ絶句するしかない。
「へー……その反応は……もしかして、お前、処女?」
そんな質問しないで欲しい。
私は答える事なく、顔を逸らす。
「やっぱお前可愛いねぇ。興味津々だわ……」
やっぱり、竜胆君が言った言葉が今になって効いてくる。
無理矢理にでも、逃げるべきだった。
今からでも暴れたら逃げられるだろうかと考えるけど、すぐにその思考を捨てる事になる。
立ち上がって突然脚を下に引かれ、ベッドに寝転ぶ形になった私の上に、素早く移動して組み敷かれる。