第4章 君に笑顔を
リビングに訪れた静寂を破る。
「あの、ね、竜胆君。その……」
「好きってやつ、気にしてるのか?」
先を越されてしまって、言葉を飲み込む。
「あれは、忘れてくれていい」
「え、でも……」
竜胆君が私の頭に手を置いた。
「もちろん、好きになってくれたら嬉しいけどさ、俺の言葉でお前が悩んで苦しむのは嫌なんだよ」
苦笑して「な?」と言う竜胆君に、私は心の中で謝って「分かった」と返事をした。
「あー……っと、シャワーしてくるか? また寝るにしても、その格好じゃ何だし。それとも、色々あって疲れただろうし、ゆっくり風呂浸かるか? 湯、張ってやろうか?」
まるでお母さんみたいな竜胆君に、私はシャワーだけ浴びさせて欲しいと頼む。
その後も色々お世話を掛けてしまって、とりあえず軽くシャワーを浴びる。
シャワーを浴び終えて、用意された着替えに袖を通した。下着まで用意されていた事には、触れないでおいた。
「おっきい……」
膝上まであるTシャツからは、洗剤の匂いと微かに蘭さんの香りがした気がした。
髪を乾かしてリビングに戻ると、竜胆君がキッチンに立っている。
「ほら、水」
「あ、ありがとう……あの、この服って……」
「あぁ、兄貴のロンT。やっぱお前が着るとワンピースになんな」
さり気なく最後に「可愛いな」と言われ、照れる。
この人はこれを自然にやるんだから、怖い。
受け取ったミネラルウォーターを、乾いた喉に流し込む。久しぶりの水分に、ホッと息を吐く。
「腹は? 何か軽いもんでも作ろうか?」
「ううん、大丈夫。お腹空いてないから、ありがとう」
竜胆君は世話好きなんだろうか。蘭さんのお世話もしているのかな。
「竜胆君は、まだ寝ないの?」
「あぁ、今さっき見たいテレビ終わったからそろそろ寝る」
もしかして、待っててくれたのかな。そうじゃなくても、色々お世話になりっぱなしだ。
部屋へ戻ろうとした竜胆君の背中に呼びかける。
「竜胆君、ありがとう」
「あ? 何で礼?」
「いーの。おやすみなさい」
「変な奴だな、早く寝ろよ。おやすみ」
少し笑って竜胆君が部屋へ入って行った。
もらったミネラルウォーターを手に、蘭さんの部屋に戻ろうか迷っていると、手にあった水がなくなる。