第4章 君に笑顔を
蘭さんは不思議な人だ。
自分の周りには、私なんかより綺麗で可愛くて、お似合いの人がたくさんいるだろうに。
私を傍に置いた所で、面白い訳でもないし、特に意味なんてないのに。
長いキスの後、クラクラする頭を必死に働かせようとする私の唇を、蘭さんの親指が軽くなぞる。
「そんなトロけた顔しちゃって……」
今日一日色々あったり、何だかんだ考えたりと忙し過ぎた上に、今のキスが致命的となり、頭が全く働かない。
「眠いか? いーよ、寝てな……」
ベッドへ横になり、蘭さんの腕に包まれるように抱かれ、胸に顔を埋めると、ウトウトしてくる。
最初は嫌いだった蘭さんの大人っぽい香りが、今ではこんなにも安心する。
やっぱり彼は、不思議な人だ。
そして、私は変だ。
考えるのをやめて、私はゆっくり目を閉じた。
喉の乾きに目が覚める。
ずっと蘭さんに抱きしめられながら眠っていたのか、すやすやと寝息を立てる綺麗な顔がすぐ近くにある。
髪は解かれていて、自分が女だと言うのが恥ずかしくなるくらいには、とにかく美人だ。
蘭さんを起こさないようにそっと腕から抜け出し、体を起こしてカーテンの閉まった窓に目を向けた。
光が入ってないから、夜なのだろうか。
スマホを確認すると、夜中だった。
とりあえず蘭さんの部屋から出ると、リビングには明かりが付いていて、ソファーに座ってテレビを見ている竜胆君がいる。
「よぉ、起きた?」
「お、お邪魔してます」
顔だけこちらを向けた竜胆君がソファーから立ち上がってこちらに歩いて来た。
「はは、何だそりゃ。そういえば兄貴から聞いた。大変だったな、大丈夫か?」
言われて、倉庫での事を思い出してゾクリとする。
蘭さんが来てくれなかったらと、最悪が頭を過ぎってそれを頭の中で必死にかき消す。
助かったんだし、終わった嫌な事は早く忘れたい。
「うん、大丈夫。蘭さんが助けてくれたし。でも、心配してくれて、ありがとう。迷惑かけて、ごめんね」
「いや、お前が謝る事ねぇって。学食の時のあれも、もしかしたら火種になってたかも知れねぇから、俺のせいでもあるしさ」
竜胆君は本当に優しい。彼は何も悪くないのに。
今竜胆君と二人きり。今が、その時かもしれない。