第4章 君に笑顔を
蘭さんは私の脇に手を差し込み、軽々と持ち上げてしまう。
私は蘭さんの長い脚の間に、横向きに座らされる。そして、蘭さんが私の手首を持ち上げる。
「お前、細すぎねぇ? それでなくても小せぇのに」
「そうですか? 標準だと思いますけど……蘭さんが大きいだけです」
蘭さんの腕の中にすっぽりと収まって、胸に凭れ掛かる私の髪を蘭さんの大きな手が撫でている。
心臓の音が、耳に心地よくて。ただ、何故こんな状態なのか改めて考え出すと、妙に恥ずかしくなってきた。
「何で赤くなってんの?」
「いえ、あの……この状況は一体……」
「んー? 大事なもんは腕の中に閉じ込めて、絶対手放すなってのが、俺のポリシー的な?」
ふざけたような口調で言うから、流しそうになったけど引っ掛かる箇所がある。
「大事……」
どう言ったらいいか分からなくて、蘭さんを見る。
「可愛い顔で見つめんな、食っちまうぞ」
甘い。そんな甘い声で囁いて、微笑まないで。
こんな事だけで、異性に耐性がない私の心臓は、うるさく早鐘を打つ。
怖くて、逃げたくて、ずっと好きになれなかった人を目の前にして、今は何だか胸がザワついていて、不思議な気分だ。
見つめら、少しだけ顔が近づく。
「なぁ、キスしてぇんだけど、いーい?」
今までそんなの聞いた事なかったのに、突然何故そんな事を聞いてくるのか。
どう答えればいいか分からず、あたふたしていると、蘭さんの長い指が頬を撫でた。
「駄目? やっぱ俺の事なんか、嫌い?」
その質問は、ずるい。
「わ、分からない、です……でも、嫌いでは、ないです……」
額、目元、鼻頭、頬と小さなキスが、ちゅちゅっと音を立てて降ってくる。
「じゃ、好きになれ……」
「蘭さっ……」
唇を避けて、耳、首筋へとキスが降りてきて、また見つめられる。
両頬を包む手の平と、囁く声は甘くて、物凄く優しい。
「いっぱい甘やかして、いっぱい大事にすっから……俺だけのモノになれ……」
言葉は出会った頃と同じように強引だけど、声音は言葉通りに甘やかすみたいに響く。
「蘭さ……んっ……」
柔らかな唇が、優しく何度も触れては離れる。
もう癖になっていて、自然と開いた唇の隙間から舌が入ってくるのを受け入れる。