第4章 君に笑顔を
蘭さんが中に入ってくる。
動きが妙にゆっくりで、何とも言えない恐怖に包まれる。
「ぴーぴーうるせぇよ……おめーらの意見なんざ、聞いちゃいねーんだよ」
目は氷点下のように冷えていて、涼しい顔で一人の男を蹴り上げた。
白目を剥いて倒れた人を、更に殴る蘭さんはずっと無表情で、私は何も出来ずにただ見ているしかなかった。
あっという間に男達が倒れ、意識がないにも関わらず、殴り続ける蘭さんを、さすがに止めないと駄目だと、頭が警鐘を鳴らす。
「蘭さんっ、もうっ、いいからっ!」
殴る腕にしがみつく。
「離せ……まだだ……」
「駄目っ! これ以上したら、死んじゃうっ……お願いっ、やめてっ、蘭さんっ!」
久しぶりにこんなに大きな声を出した気がした。
蘭さんの動きが止まり、手の血を跨っている男の服で拭いて、立ち上がる。
私は、乱れた服から見える肌を隠すように、制服を閉じて握る締める。
蘭さんは倉庫を出てすぐに戻って来て、私の前でしゃがみ込み、服のボタンを留めてくれる。
「あの……ありがとう、ございます……」
「いーえ。とりあえずここ出るぞ、話は後だ」
手を取られて、立ち上がる。
「歩ける? なんなら、抱っこしようか?」
悪戯っ子みたいな顔をして言う蘭さんに、首を横に振って拒否した。
今の今まで人を傷つけていたのに、私に触れている手は物凄く優しい。
「あ、あの……どうして場所が……」
「んー? あぁ、これにアプリ入れてある」
スマホを見せて笑う蘭さんに、意味が分からず首を傾げる。
アプリは分かるけど、それと私の居場所の何が関係あるのか。
「お前のスマホと俺のスマホを連動させて、場所分かるようになってんの」
いつの間にそんなアプリを入れられたのか。勝手に変なアプリを入れないで欲しい。
手を繋ぎながら、通い慣れたマンションに到着する。
当たり前みたいに連れて来られたけど、さすがにあの後にとなると、気が重い。
蘭さんの部屋へ直行すると、ベッドに座らされる。
無言で制服のボタンを外し始めるのが自然過ぎて、まるで他人事みたいに見ていて途中でハッと我に返り蘭さんの手を自らの手で止める。
「あ、あのっ……今日は、その……」
蘭さんが目だけでこちらを見る。