第4章 君に笑顔を
女の先輩に殴られた時とは違って、口の中に鉄の味が広がり、口の端から少量だけど血が流れて、力の差がありありと見せつけられる。
体が先程とは比べ物にならないくらい、ガタガタと震え出す。
引きずられるように、連れ戻される。
体育倉庫の扉は閉められ、埃っぽいマットの上に突き飛ばされた。
その時に腕を打ち付けて、痛みに呻く。
「お転婆な兎ちゃんだなぁ」
「大人しくしてりゃ、怪我せず気持ちいいだけで済んだのにー」
私の体に跨った男達の下品な笑いに、鳥肌が立つ。
涙が流れる。
「君、泣き顔エロいねー……上がるわー」
体に触れる手が、凄く気持ち悪い。
蘭さんに無理矢理された時とは、違い過ぎて戸惑いが生まれる。
複数だからなのか、彼だからなのか、分からないけど、確実に分かるのは今この状況が、最悪に嫌悪な時間だという事だけだった。
こんな時に、何故私の頭に浮かぶのが蘭さんなのだろう。
多分、本能であの人なら、ありえない事だってやってのけてしまう気がしているのかもしれない。
〔灰谷蘭side〕
呼び出してからだいぶ経つけれど、が現れる事はなく、苛立ちながらも最近のの様子から考えても、今更逃げるとも思えず、スマホを何度も確認する。
「蘭ーっ!」
扉が開いてじゃない事に、少し残念に思ってしまう。
耳障りな高い声を複数聞きながら、苛立ちが募る。
「ねーねー、最近あんまり遊んでくんないじゃーん」
「今日こそは遊んでもらうからねー」
「私甘い物食べたーい」
前までは特に何も思わなかったこいつらのこの声が、に慣れてしまった耳が拒否している。
纏わりつく女達を振りほどいて立ち上がる。
「蘭、何処行くの?」
「まさか、またあの子? いくらお気にだからって、構い過ぎじゃない?」
「そーだよ、私達にも構ってよー」
が少し噂になっているのは知っていた。ただ、それをそこまで気にした事はなかった。
竜胆には少し前に、こいつらに絡まれていたのを聞いて忠告された事もあった。
そして、嫌な予感がする。
「ていうか、もう彼女には会えないかも」
「確かにー。蘭ももうあんなイモ女忘れなって」
違和感。