第3章 変化
目を覚ました蘭さんと視線がぶつかり、ドキリとする。
熱でぽやっとした蘭さんが少し幼く見えて、少し可愛いと思ったのは絶対に内緒だ。
何度か言葉を交わし、私の手を額に当てたまま蘭さんはまた眠ってしまった。
蘭さんの額に新しい冷えたタオルを乗せて部屋を出て、私はキッチンに立った。
蘭さんにされた質問の意味を考えながら、おかゆか雑炊で悩んだ結果、雑炊を作る事にした。
勝手にキッチンを使うのも悪いと思い、とりあえず竜胆君にメッセージだけ送っておいた。
雑炊が出来上がる頃、玄関の扉が開く。竜胆君が顔を出して、ジト目で見られる。
「お、おかえり、なさい」
「ったく、お前は予想外の事するよな」
「ご、ごめん……」
「謝んなよ、別に怒ってねぇし」
頭をポンポンとされ、竜胆君は部屋へ向かう。
部屋着に着替えて戻ってきた竜胆君に、じっと見られる。
「な、何?」
「お前、兄貴の事、好きだったりする?」
蘭さんにも同じような事を聞かれたなと思いながら、竜胆君から目を逸らす。
「……始まりが、その……あんな感じ、だったし……好きかって言われると、まだ、少し怖い……。けど、前程は、嫌いじゃ、ない……かも……」
蘭さんと過ごすようになって、知らなかった優しい部分とか可愛い部分なんかも知る時間が増えた。
だからといって、やった事が許せるかと言われたら、分からない。
私は、どうしたいんだろう。蘭さんを、どう思ってるんだろう。
そう簡単に答えは出なくて、竜胆君の質問にはそれ以上答える事が出来なかった。
家を後にして、私は高そうなマンションを見上げる。
頭を過ぎったのは、蘭さんの事。
少し前に、蘭さんにどうすれば笑うのかと聞かれた事があった。
その質問の意味が、いまだに分からない。
私が笑ったからといって、彼に何のメリットがあるんだろう。
考えれば考えるほど、何を考えているのか分からない、本当に不思議な人だ。
マンションから目を離して、私は歩き出した。