第3章 変化
静まり返る学食で、咄嗟に竜胆君の腕に触れる。
「竜胆君っ、もぅ……いい、からっ……」
言うと、私を一瞥して手を離す。
散らばって行った先輩達を見送りながら、私は竜胆君を見上げる。
「あの、ありがとうっ!」
「べ、別に。兄貴の事で迷惑かけちまってんのはこっちだし」
「竜胆の顔赤ーい」
「愛だねー」
「う、うっせーっ……」
茶化されて顔を赤くしながら頭を掻く竜胆君に、私は疑問を投げた。
「竜胆君、あの……蘭さん……風邪、なの?」
私の口から蘭さんの名前が出るのが意外だったのか、驚いた後、竜胆君の眉間に皺が寄る。
「そうだけど、何で?」
「さっきの人達が、そう言ってたから……」
「だとしても、お前が気にする事じゃない」
言って、竜胆君は去って行った。
私は学食を出て、教室へ向かった。
確かに、竜胆君が言うように私が気にするのは違うし、関係ないとは思うものの、気にしてしまう自分もいて。
何であんな酷い人を気にしてしまうのか、自分が一番分からない。
私はそれを、知りたかったのかもしれない。
蘭さんに会えば、少しは何か気づける事があるのだろうか。
そして、私は初めて学校をサボった。
カバンの中を探ると、一枚のカードが手に触れてそれを取り出す。
「まさか、自分から使う時が来るなんて……」
最初に抱かれた日、蘭さんが呼び出しにわざわざ出迎えるのが面倒だと渡されたカードキー。
呼び出されて使った事はあったけど、自ら使うなんて考えもしなかった。
竜胆君がいるから必要ないとは思ったけれど、とりあえず少しだけ買い物をしてきた。
緊張しながら鍵を開けて、部屋へ入る。
「お、お邪魔します……」
静かな部屋に、買い物袋を置く音が響く。
冷蔵庫に入れる物を先に入れ、蘭さんの部屋の前に立つ。
起こさないように、出来るだけ音を立てずに扉を開けた。
隙間から中を覗くと、ベッドで少しだけ早い呼吸をしながら眠る蘭さんがいる。
髪を解いている姿を、最近よく見るようになった。
恐る恐る中へ入ると、蘭さんの額からタオルが落ちているのを見つけ、それを取って額に手を当てる。
熱はそこまでないものの、まだ少しだけ熱い。
綺麗な顔だなと改めて見る。