第3章 変化
〔灰谷蘭side3〕
分からないと言ったような顔で、こちらを見る目と視線がぶつかった。
「そのまま、手ぇ、乗せてて……」
ベッド横に座ったまま、素直に俺の額に手を起き直す。
怖がってるくせに、こうやって距離感に無防備になる。
ほんとに、不思議な奴だ。
「なぁ……お前さ、竜胆の事、好きか?」
驚きに黒目がちな目が開かれる。
「あ、あのっ……好き、ですけど……。でも、竜胆君は……その、友達、だから……」
困ったような顔で言葉を選びながら話す。
この反応はどっちなんだ。全然分からないうえに、熱がまだ残ってるのか、頭がしっかり働かない。
とりあえず今は、このままで。
次に目覚めた時、俺は部屋の外から入ってくるいい匂いに、鼻を刺激される。
「腹減った……」
熱さはもうほとんどなくて、体もだいぶ軽くなった。
部屋を出ると、竜胆がキッチンに立っていた。
「兄貴、もう大丈夫なのか?」
「竜胆ー、腹減った……」
心配そうにしている竜胆が、俺の言葉に苦笑した。
出された雑炊は、いつもの竜胆が作る感じではなく、竜胆を見る。
「やっぱ気づいた? それ、が兄貴にって」
「……は?」
ほら、やっぱり訳分かんねぇ。
自分が何をされたか分からねぇわけじゃねぇだろうに、こうもお人好しだと心配になるレベルだ。
「はははは、っとに、バカな女だよな……」
「おい、兄貴っ……」
「竜胆」
俺は、竜胆をまっすぐ見る。
久しぶりにこんなに真剣に弟を見た。
「俺、やっぱお前には渡せねぇわ」
竜胆の目が開かれる。
そりゃそうだろう。俺が一人の女に入れ込む姿は、誰にも、俺にすら想像つかない。
竜胆が隣に移動してくる。そのまま胸ぐらを掴まれ、そちらを見上げる。
「俺も人の事は言えないけど……それでも女に不真面目で、あんな事を始めた兄貴に……アイツを幸せに出来るとは、思えない……」
「それでも……俺は、が欲しいんだよ。誰にも渡す気はない。お前にも」
竜胆が俺に楯突いた事なんて、今まで一度だってなかった。
それだけ、に本気なのだと感じる。
だからといって、譲るつもりはない。