第3章 変化
〔灰谷蘭side2〕
その笑顔が、可愛いと思った。
いつしか、俺にその笑顔が向かないかと、また柄にもない事を考えて苦笑する。
最近の自分の変な感情に、苛立ちと不信感にまた苛立つ悪循環。
「なぁ、お前どうしたら笑うんだ?」
「……へ?」
昼休みにを捕まえて、屋上に連行しての弁当を口に運ばせながら言うと、が間抜けな声を出した。
「あの……それは、どういう……」
困惑を顔に張り付けて、持っていた箸を落としそうになっている姿すら、可愛く見えてくる。
どうやら俺は、を気に入って、だいぶハマっているらしい。
だから、が誰かに傷つけられたのを見て、腹の底が煮えくり返る気分だった。
こいつを傷つけるのも、快楽に落とすのも、それ以外も全部、俺だけに許されたものだ。
誰にも、それは譲る気はない。
そう、それがいくら可愛い弟である、竜胆であっても。
傷つけた相手をとうとう最後まで言わなかったが、俺のベッドで寝息を立てる。
その小さな体を、守るように包み込んで抱きしめる。
「俺等兄弟二人共を夢中にさせるとか……お前はほんと大物だよ……」
頭にキスをして、改めて抱きしめる力を強めて目を閉じた。
その二日後に、俺は熱を出した。
熱なんて、何年ぶりだろうか。全然思い出せないくらいには、久しぶりなんだろう。
竜胆は律儀に俺の世話をしてくれる。本当に俺と違って出来た弟だ。
気づいたら眠っていたようで、先程よりは暑さと苦しさはマシになっていた。
鍛えないとと思っていると、頭にひんやりとした手の感触。
これは、竜胆のじゃないのがすぐに分かる。
しなやかで、滑らかな肌の感触は、女のものだ。
そして、は気づいているのかいないのか、この部屋に入れる女は一人しかいない。
「ぁ……気分は、どう、ですか?」
「何でいんの? 風邪伝染んぞ……」
の口からまた「すみません」と消えそうな声がする。
「別に怒ってねぇ……。お前、悪くもねぇのに、そのすぐ謝る癖やめろ……」
まだ少し残るダルさに、の手の冷たさが気持ちよくて、離れた手を掴む。