第3章 変化
今は、従順でいられる自信がない。
私は彼を見る事すらせず、俯いたまま立ち上がって彼の横を通り過ぎようとした。
けれど、そう簡単にいくわけはなかった。
腕を掴まれ、彼の方に体を向ける形になる。顔は背けたままだ。
「つか、無視かよ……。今日はえらく生意気……」
顎を持たれて顔を上げさせられて、すぐにまた顔を背けた。
「……何だその頬、赤くなってんじゃねぇか」
両肩を持たれて、体を固定される。それだけなのに、力が強くて動けない。
「誰にやられた?」
質問に私が答えないのに苛立ったのか、舌打ちが聞こえるけど、今は珍しく腹立たしさが勝っている私は、口を閉ざしたままだった。
突然体が浮いて、反射で蘭さんにしがみつく。
「いゃっ、お、降ろしてっ!」
「っるせぇ……騒ぐな。足、痛てーんだろ?」
そう言われてみれば、擦り剥いた膝がズキズキする。そんなところまで見ていたのか。
まるで抱っこされるみたいに抱えられ、私は学校を出る事になった。
何度か抵抗したけれど、蘭さんの「今すぐここで犯してやろうか?」という言葉と、凄みに口を噤む。
この人ならやりかねないから。
校門を出てすぐのコンビニに、男子が数人たむろしていた。
「あれ? おい、蘭、お前何抱えてんの?」
「やべー、ははは、女の子じゃん。つーか、誘拐?」
冷やかすみたいな声に、咄嗟に顔を隠すように蘭さんの首元に顔を埋める。蘭さんはいつもの調子で緩く返す。
「おー、可愛いの拾ったー。いーだろー?」
「お前が抱えると何か犯罪の匂いするわ。体格差か?」
「それなー。具合よかったら今度貸してー」
ふざけたみたいに発せられたその言葉に、体が震え出す。
先輩達のあの言葉が、頭を過ぎる。
「こいつはお気にだからダーメ。手ぇ出したら殺すよー」
笑いながら言っているのに、声には何処か威圧感というか、迫力があった。
そのまま暫く無言で歩いている蘭さんの腕の中で大人しくしていると、鍵の開ける音がした。
蘭さんが鍵を開けるという事は、竜胆君はいないという事だと最近知った。
蘭さんの部屋の扉が開いて、蘭さんの香りがより一層強く鼻をくすぐった。
それだけで、体がゾワリとして粟立つみたいだ。