第2章 兄と弟
悲痛な言葉に、胸が締め付けられる。
「……好きだ……」
弱々しく呟かれた言葉に、心臓が小さくザワついた。
「俺は、兄貴より汚いっ……。好きで……ごめん……」
まるで泣いてしまうんじゃないかと思って、遠慮がちに竜胆君の背中に手を回す。
この人は、凄く優しくて、弱い。
だから、兄と一緒に私を抱いた事に罪悪感や嫌悪感、後悔なんかを溜めてしまっているんだろう。
許される事じゃないけど、私は彼を憎みたくはない。
それが、偽善だとしても。彼の気持ちに応えられないとしても。
放課後、私はまたしても漫画みたいな状況に陥っていた。
「あんたが最近の蘭のお気に入り?」
「蘭もこんなちんちくりんなガキの、何がいいんだろ」
「たまには違うもの食べたくなるって、アレじゃね?」
派手な髪に、制服を着崩して、地味な私とは正反対の色気が溢れる、モデルのような先輩達に囲まれ、私は震える体を抱きしめるように、カバンを胸に抱える。
「あんたさ、竜胆君とも仲良いんだって?」
「灰谷兄弟両方? マジかよ……。つか、お前みたいなイモ女、珍しいだけで本気で相手してもらってるなんて、思ってないよな?」
「だとしたらよっぽどめでたい奴じゃね? うっざ」
最後に言った先輩の足が私の体を蹴った拍子に、私はバランスを崩して倒れた。
膝と地面についた手に痛みが走る。
髪を掴まれて、顔を上げさせられる。
「あんま調子乗んなよ? お前みたいなブス、簡単に潰せんだからな」
「次、灰谷兄弟にちょっかいかけたら、分かってるよな?」
「アイツらに頼んで輪姦すとか?」
「いいねーそれ。分かった?」
恐ろしい事を言われて、何も言えずにただ震える。
知らない人に酷い事をされるのは嫌で仕方ないけど、蘭さんから逃げられるとも思えなくて。
頭がパニックで、吐き気がする。
「泣けばいいとでも思ってんのかよ」
「男相手でもお前みたいなブスじゃ無理だよ」
何度か蹴られ、頬を叩かれ、先輩達はいなくなった。
ガタガタと震えの止まらない体をカバンごと抱きしめて、悔しくて流れる涙を拭う事すらせずに泣き続ける。
何で私がこんな目に遭わないといけないの。私が何をしたの。
「みーっけ」
今一番聞きたくない声。