第2章 兄と弟
拾い上げて立ち上がると、私の方に手を差し出した。
「ほーら、立てるか?」
私がそれを見ながら固まっていると、ニヤリと笑う。
「何? 抱っこして欲しい?」
私は頭を何度も横に振って、差し出された手を取って立ち上がった。
ここにたまたま人がいないからといって、こんな所で抱っこなんて冗談じゃない。
ノートを受け取ろうとしたけれど、蘭さんはノートを持って私の手を握ったまま歩き出す。
この人はそれでなくても目立つのに、一緒にいたら私まで目立ってしまう。それは本当に勘弁して欲しい。
けど、私にこの手を払う勇気はないから、目いっぱい下を向いて歩くしか出来なかった。
というか、嫌いなのにどうして一緒に行くんだろう。
まさか、その後に何かされるんだろうか。そう思うと、どんどん気分が憂鬱になる。
案の定目立ってしまっている私達を、ヒソヒソ噂をする声が聞こえて逃げ出したくなる。
職員室に着いて、私はすぐに蘭さんを見る。
「あ……ありがとう、ございましたっ! あの、ノートを……」
「んー? お礼は?」
今私お礼を言ったはずなんだけど、まさかこの距離で聞こえなかったなんて、有り得ない。
蘭さんはニヤニヤしたまま、腰を曲げて少し屈んで見せる。
私は察してしまった。こんな勘の良さは全くいらない。
「言われなくても分かんだろー? 早くしろ」
口は笑っているのに、目が全く笑っていなくて、至る所から刺さる視線に羞恥で顔が熱くなる。
でも、後で酷くされるよりはマシだと思い、私は意を決して背伸びをする。
唇が、ゆっくり触れた。
一瞬なのに、そこから電気が走るみたいに痺れる。
「物足んねぇけど、まぁ、にしちゃ頑張った方か」
楽しそうに言って、蘭さんは私の頭にポンと手を置いて背を向けた。
案外すんなりと解放されて、大きく息を吐いた私は心底安堵した。
そして、昼休み。
お弁当を作る暇がなかった私は、購買でパンを選んでいた。
レジで財布を開けようとした瞬間、私の手から財布が奪われた。
驚きで咄嗟にそちらを見ると、竜胆君がいた。
「これも一緒に」
レジにパンが追加で置かれ、竜胆君の財布からお金が出されて、袋に入ったパンが返される。