第2章 兄と弟
寝てるのに、その腕の力はしっかり入っていて、抜け出せないから帰れない。
仕方なく竜胆君のベッドで朝を迎えるなんて、今更だ。
まだ夜中だから、私も眠る事にした。
ウトウトし始めた頃、隣の部屋の開く音が微かに聞こえる。
それは、蘭さんの帰宅を意味していた。
眠気が一気に覚めて、無意識に震え出す体。
私に気づかないで。そう願いながら目をギュッと閉じていると、竜胆君の抱きしめる腕に力が入る。
優しく背中を撫でる大きな手の温もりが、固くした体を解していく。
「大丈夫だ……大丈夫……」
そう言いながら、私を包み込んで頭にキスを落とす。
竜胆君の胸にしがみついて、見つからないようにするみたいに丸くなる。
毎回部屋に来るわけじゃないのに、見つかるのが嫌でつい隠れるような態度をとってしまう。
何度抱かれても、あの人は何を考えているのか、何をするのかが分からないから怖い。
私を抱きしめながら、竜胆君がまた「ごめんな」と呟いた。
そんな異様な生活が続いた数日後、私は一人体育館と校舎を繋ぐ渡り廊下を、足早に歩いていた。
そこからそんなに遠くない、中庭が少し見える。
見覚えのある三つ編みの上級生を囲むように、何人かの女子生徒が見えた。
体が冷える。
見つからないように、目を逸らして足を早める。
校舎へ入ると一気に緊張が解けて、手に持っていたノートの束を落としてしまって、廊下の端の方に座り込む。
深呼吸して、震える体を落ち着ける。
「見事な逃げっぷりだったねー。傷ついちゃうじゃーん」
「っ!?」
抱きしめられている訳じゃないけど、後ろから包まれるみたいに体が密着する。
再び震え出す体を無理矢理動かして、顔だけでそちらを振り返る。
「ぁ……ご、ごめっ、なさ……」
「ビビり過ぎ。別にそんなんじゃ怒んねぇよ? 俺どんな奴だと思われてんのよ」
私の髪を指で梳いて、しゃがんで曲げた自分の脚の上で頬杖をついて、片方の口角を上げて苦笑する。
まるで自分が何も悪くないみたいな顔で、この人は何を言っているんだろう。
「で? どーこいーくの?」
「あ、の……職員室に……」
「ぅげっ、俺職員室きらーい」
蘭さんが散らばったノートを拾いながら言う。