第3章 聖なる夜に ☆*:.。. 徳川家康 .。.:*☆
夕方、家康は約束どおり陽が落ちる前には御殿に戻って来てくれた。
「おかえりなさい!早く帰って来てくれてありがとう、家康」
「うん、約束したからね。まぁ、帰り際に偶然信長様に会ったのは想定外だったけど」
「えっ、信長様?家康に何かご用事だったの?」
「いや、たまたま会っただけ。でもうっかりクリスマスの話しちゃって…案の定、信長様が興味津々で困ったって話。『今すぐ詳しく聞かせろ』って言われて宥めるのに苦労した」
「そうなんだ…ふふ、信長様らしいね」
深紅の瞳をキラキラと輝かせて子供みたいに好奇心たっぷりで家康を質問責めにする信長の姿が目に浮かび、自然と口元が綻ぶ。
「俺は詳しく知らないからって言ったら、あんたに明日聞くって言ってたよ。まぁ、あの時間から引き止められなくて助かったけど明日はあんた覚悟しといた方がいいかもね」
「ええっ…」
心底嫌そうな顔をする家康だが、こんな風に信長様が家康に構うことは珍しいことではなく、何だかんだ文句を言いながらも家康もまた、そんなやり取りを心の奥では楽しんでいるのではないかと私は密かに思っているのだった。
(家康と信長様は、見えない深い絆で繋がっているような気がする。兄と弟、父と子みたいな…家族みたいな感じ。二人の昔の話を詳しく聞いたことはないけれど…)
私自身特に歴史に詳しいわけでもなく、家康が数年間織田家の人質だった後に今川家で長く人質生活を送っていた、というような話を聞いたぐらいのことなので、幼い頃の家康と信長様の関係がどのようなものだったのかなど、五百年後から来た私が知る由もなかった。
それでも今の家康に対する信長様の態度は、単なる同盟相手に対するようなそれではなかった。
(揶揄いながらもどこか温かみがあって見守っているような…そんな感じ。家康の方も憎まれ口を叩いてても本当は信長様のことを尊敬してるんだってことが分かる)
二人のそんな関係を傍で見ていられることが、この上なく幸せなことに思えた。